TOG・CP

□トナリ
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砂浜にしゃがんだまま、ソフィは行き来する波を見ていた。

そこに別の何かが見えているかのように。

実際、見えているのは透き通る海と白い泡。

消えていく飛沫。


「さっきからどうしたんだ?」


隣にいるアスベルは、ずっと気になっていたのだろう。


「別に」


ソフィは海から目を離さない。

左半身にアスベルの視線を受ける。

無視しているつもりはない。

ただ。

ただ、


「わたしは……」

「ん?」


一歩一歩海へと近づく。

足元を濡らす海水。

ソフィはまた、その様を見つめた。


「ソフィ?」

「アスベルにとって、わたしって何?」


ふわりと揺れる菫色の髪。

それを視界の端に入れつつ、アスベルを見上げた。

彼の瞳がわずかに揺れる。


「何って……」

「わたしがいても、いなくても。きっと、アスベルには、関係ない」

「何だそういう意味か……。じゃなくて」


アスベルはどういう意味にとったのだろう、とソフィはわずかに首を傾げる。
 
アスベルはそれに気づかなかったようだ。


「いてもいなくてもってことはない。俺は、ソフィにいてもらいたい」


ここに、と彼は隣を指した。

今は誰もいない、アスベルの隣。

ソフィはそっと近づいて、並んでみた。


「何か変わる?」

「当たり前だろ。おまえがここにいるから、俺は安心して戦えるんだ」

「……本当?」

「こんな嘘、誰の利益になる」

「アスベルの?」


完全に沈黙を作られた。

それでもいい。

ソフィはアスベルの手に触れた。

いつも守るための刃を握る手に。

その手は思っていたよりあたたかくて、ほっと安心した。


「ソフィ?」


潮風が冷気を含み出す。

ソフィを気遣ってか、名前を呼んだ。

ぼんやりとした頭に響く。


「……立ったまま寝てるのか?」

「寝て……ない」


色々考えて寝不足だったことを、今更のように思い出した。


「仕方ないな」


ソフィの前にしゃがむアスベル。

何を言いたいのか、すぐに分かる。


「……やだ」
 
「眠たいんだろ? 部屋まで送る」

「大丈、夫だから……」


瞬きのリズムが大きく崩れ、自分が起きているのか眠っているのか、わからなくなってきた。


「ソフィ」


その声に誘われて、ソフィはアスベルの背中で目を閉じた。








***


「……」


翌朝目が覚めたソフィは、自分の手が握るものにため息をついた。

思い切り皺の出来たそれ。


「……アスベル」


自分の側で寝ることを余儀なくされた彼は、風邪をひいていないだろうか。

握り続けていたせいか痺れた手を放し、床に落ちていた彼の分の毛布をかけた。


「ん……」

「アスベル、ごめん。ありがとう……」


届いていなくてもいい。
 
ただ、そう言いたかった。






トナリ


その響きが、今はどんな言葉よりも、嬉しかった。








E N D



2009/10/04
 

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