TOG・CP

□逃げた分の幸せを、わたしが捕まえてあげる
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「何ですか?」


じっと見つめるその瞳に、仕方なく口を開いた。


「ヒューバート、幸せ、逃げるよ?」


聞かなくても分かる。

さっきからの数えきれないため息のこと。


「そうですね」


適当に返事をして、ヒューバートはまた一つため息をついた。


「ヒューバート!」


ソフィの声が頭に響き、眉をひそめた。

彼女の声が頭を反響して、痛い。


「……何ですか」

「わたしの目を見て」

「見ましたけど?」


その反応が気に食わなかったのか、ソフィは大げさにため息をついた。


「ヒューバート、全っ然ダメ」

「何がですか?」

「もっと、笑って」


何かを言おうとしたのだが、上手い言葉が見つけられず、頭を振ってその感情を外へ流した。


「笑わないの?」

「面白いことがないのに、笑えません」


ソフィは暫く考えて、自分の頬を両側へ引っ張った。

一体何をしているのかわからないと、ヒューバートが真剣に悩み始めた頃。


「……おもひほふはひ?」
 
「面白くないです」


どうやら、ヒューバートを笑わせようとこんな事をしたらしい。

軽く頭痛を感じたのは、恐らく気のせいではない。


「ヒューバートって、何が好きだった?」

「さあ、何でしょうね」

「教える気、ない? その顔、イジワル……」


わざと口元に作った笑みは、ソフィは気に入らなかったらしい。

当たり前だが。


「放っておいてください。相応に幸せですから」

「ダメ。いっぱい、幸せになって」

「どうしてですか」


プイッと背けた顔。

何故だかわからないが、よく似ているような気がした。


「自分の幸せは、自分で掴みます。貴方は貴方の幸せを……」

「イヤ」


こんな時だけはっきりと言う。

どうしろと言うのだ。

自分の手には負えない気がしてきた。
 
クセのようにため息をつこうとした瞬間、ソフィの手が思い切りヒューバートの口を押さえた。


「危ない。また幸せを逃すところだった」


一仕事終えたと満足そうなソフィの目の前で、ヒューバートは眉間に深い皺を作る。


「離してください」


ソフィの手を離しながらそう言えば、彼女はわずかに表情を変えた。

そう感じただけで、実際は違うのかもしれない。


「ヒューバート、大丈夫」

「何がですか」






逃げた分の幸せを、わたしが捕まえてあげる


そして、その幸せを届けてあげるね








E N D



2009/11/03
 

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