TOG・CP

□おかあさんになりたい
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「アスベル」


服の袖をチョンチョンと引っ張る彼女に気づき、アスベルは顔を向けた。

ソフィの左手には、何かが大事そうに握られている。


「どうしたんだ?」

「あのね、わたし」






おかあさんになりたい






頭が痛い。

それは比喩表現などではなく、実際に頭を強打したから。

涙が浮かぶほど痛い。

意識をそこに向かわせてはいけない。

ソフィは何を言ったか、きちんと理解しなければ。

アスベルは真剣に考えた。

が、どうやら思考回路は工事中らしい。


「ねえ、アスベル。ダメ?」

「あ、いや……。その……」


コクンと頭を傾げ、おねだりするように甘える瞳。

思う存分甘やかせてやりたい、と思ってしまう。


「ソフィ、どうしてそんな話になったんだ?」

「コレ」


先ほどから大事そうにしていたもの。
 
おそらく鳥の卵だ。

それをアスベルに見せた。


「……これは?」

「拾った。教官が愛情こめてあたためたら、生まれるって言った。パスカルが雛が生まれたら、おかあさん代わりになって育ててあげればって言った。ヒューバートが、アスベルの許可をとってきなさいって言った。シェリアが……」

「わかった。もういい」


仲間たちは何故止めなかったのだろう。

理由は簡単だ。

アスベルの反応を見て楽しむために決まっている。

つまり、見事に嵌められた。

いろんな意味で頭が痛い。

右手で額を押さえ、完全に座り込む。

立っている気力はなかった。


「……アスベル?」


降ってきた声は不安な色を溶かし、それは泣き出しそうな物に聞こえた。


「……ダメ?」

「あ、いや。そうじゃないんだ」

「?」

「その卵、多分、孵らないぞ」


よくわからないと尋ねてくるソフィに、何と説明するか迷う。

上手く説明できる自信もない。

簡単に、そして傷つけないように諦めてもらう言葉。


「産まれてすぐの卵じゃないとダメなんだ。この卵は、カニタマにしような?」
 
「わかった。次は、もっと新鮮な卵を探すね」



鳥の巣を荒らす少女の噂が広がるのは、すごく近い未来の話。






E N D



2010/02/03



***

書き始めて、随分経ったもの。
しかも、短いしカプじゃない……。

 

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