TOG・CP
□おかあさんになりたい
1ページ/1ページ
「アスベル」
服の袖をチョンチョンと引っ張る彼女に気づき、アスベルは顔を向けた。
ソフィの左手には、何かが大事そうに握られている。
「どうしたんだ?」
「あのね、わたし」
おかあさんになりたい
頭が痛い。
それは比喩表現などではなく、実際に頭を強打したから。
涙が浮かぶほど痛い。
意識をそこに向かわせてはいけない。
ソフィは何を言ったか、きちんと理解しなければ。
アスベルは真剣に考えた。
が、どうやら思考回路は工事中らしい。
「ねえ、アスベル。ダメ?」
「あ、いや……。その……」
コクンと頭を傾げ、おねだりするように甘える瞳。
思う存分甘やかせてやりたい、と思ってしまう。
「ソフィ、どうしてそんな話になったんだ?」
「コレ」
先ほどから大事そうにしていたもの。
おそらく鳥の卵だ。
それをアスベルに見せた。
「……これは?」
「拾った。教官が愛情こめてあたためたら、生まれるって言った。パスカルが雛が生まれたら、おかあさん代わりになって育ててあげればって言った。ヒューバートが、アスベルの許可をとってきなさいって言った。シェリアが……」
「わかった。もういい」
仲間たちは何故止めなかったのだろう。
理由は簡単だ。
アスベルの反応を見て楽しむために決まっている。
つまり、見事に嵌められた。
いろんな意味で頭が痛い。
右手で額を押さえ、完全に座り込む。
立っている気力はなかった。
「……アスベル?」
降ってきた声は不安な色を溶かし、それは泣き出しそうな物に聞こえた。
「……ダメ?」
「あ、いや。そうじゃないんだ」
「?」
「その卵、多分、孵らないぞ」
よくわからないと尋ねてくるソフィに、何と説明するか迷う。
上手く説明できる自信もない。
簡単に、そして傷つけないように諦めてもらう言葉。
「産まれてすぐの卵じゃないとダメなんだ。この卵は、カニタマにしような?」
「わかった。次は、もっと新鮮な卵を探すね」
鳥の巣を荒らす少女の噂が広がるのは、すごく近い未来の話。
E N D
2010/02/03
***
書き始めて、随分経ったもの。
しかも、短いしカプじゃない……。