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□なり損ないの天使
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なり損ないの天使
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天界に存在する庭園の中で、もっとも美しいと言われる場所。
そこに一人の少女がいた。
生まれた時から標準より小さかった翼は、成長せずに明らかに小さい。
その翼のせいか、体も小さく、飛ぶことすらできない。
『天使』に生まれたのは、何かの間違いだと思った。
庭園の中央にある噴水。
天界の創造主と言われている女神の銅像。
水瓶を抱く女神を眺めながら、小さな天使――ソフィは冷たすぎる水に触れた。
「っ!!」
触れた部分が痛いくらい痺れる。
消滅を暗示するような鋭さと鈍さを繰り返す痛み。
咄嗟に引いた手を抱き、無意識に止めていた呼吸を繰り返す。
聖水にすら触れられない。
天使として生きていくなど、無理なのだ。
淡い期待は、創造主の前で砕け散った。
穢れを知らない真っ白な煉瓦が作る道。
いつもよりブーツの音を響かせる。
諦める悔しさを小さな胸に押し込めておくことが出来なかったから。
「ソフィ?」
浮いた右足がピクリと震えた。
そして、弱々しく煉瓦を叩く。
顔を上げたくなくて、走り出した。
外見を損なう小さな翼。
走ることすら得意とは言えないが、今は逃げたかった。
「ソフィ」
ふわりと舞い降りた彼にぶつかる。
弾き飛ばされることはなかった。
「……アスベル、離して」
「どうして、逃げ出したんだ」
答えたくなかった。
近いうちに昇格する、自分とは正反対すぎる天使。
背中の翼は、見る者を魅了するほどに美しく立派だ。
柔らかな髪もその瞳も、天使になるために生まれてきたような人物。
「離して」
「ソフィ」
少し強く握られた手首。
無理矢理合わせてくる視線。
ソフィはアスベルが苦手だった。
嫌いなのではない。
嫌いなはずがない。
ずっと、憧れていた。
その姿を隣で見たいわけじゃない。
遠く離れた位置で見ていたかった。
……自分が汚してはならない存在だから。
「アスベル」
「何?」
「今まで、ありがとう」
ベタな言葉しか出てこない。
触れた手首に集まるアスベルの熱が、異常に心を乱す。
「ソフィ、いきなりどうしたんだ」
「わたしは……」
答えなくていい。
誰かの声が響く。
心地よい眠りに誘う子守唄のように、甘えたくなる声。
「さようなら」
強い言霊は、アスベルの意識を奪う。
その場に倒れた彼に、最初で最後の愛の言葉を。
「貴方がいたから、わたしは頑張ろうと思った。頑張れると思った。……大好きだったよ」
アスベルが目を覚ますのは、ずっと先のこと。
ソフィは走り出す。
先ほどまでとは異なる足取りで。
世界を繋ぐゲートの前にたどり着くと、ようやく足を止めた。
彼女は今日、天界を捨てる。
速くなる鼓動に急かされ、確実に近づく。
「どうした?」
ゲートキーパーが尋ねる。
けれど、ソフィは答えない。
「通行証の提示を」
通常このゲートを使うには、大天使から許可をもらう必要がある。
けれど、今のソフィにはそんなものは必要ない。
今でなくとも必要はない。
真っ直ぐ二人を見上げて、口を開いた。
「ゲートを通らせて」
ソフィが唯一持っている能力。
まるで悪魔のような能力。
その場に倒れたゲートキーパーの側を通り抜ける。
ゲートが放つ光が、ソフィと天界を遮断した。
サヨナラ。
わたしは今日、
天使をやめる。
E N D
2009/12/28
***
な、何を書きたかったんだろう。
自分でもよくわからない。
カプとか名乗っちゃダメですね。
続き物になりそうな雰囲気。
読みたい方がいらっしゃれば、書いてみるかも。
今のところ、シェリアとヒューバートの立場は決まってる。
購入記念作品ということで。