小説2
□慕情3 2012.2.14〜連載中 最新更新2014.6.11
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そう呟いて口を半開きにして眺めてしまっているだけだ。しかし、ただ見ていても咎められたりしない一般人とは違い、オレは眞魔国兵士だ。もしかしてもしかしなくても、引き剥がしを手伝わなきゃいけないのかねェ?
オレはもう一度眼前に広がる光景を眺めた。まるで特売品に突撃する主婦連中を見物している、荷物持ちのためだけに連れてこられた旦那のように。
いやあの戦場より彼女達は必死だろう。なにしろ伝説の眞王陛下に触ったり抱きついたりチューしたりできる機会なんて滅多にない。ていうか、もうこの先には二度と無いに決まっている。彼女らもそれが判っているからこそ、ああして一心不乱な形相で特攻しているのだ。
隊長と一緒に先陣切って突っ込んでいくのが定石だったこのオレも、さすがにこの戦場はちょっと遠慮したい気分。あの中に入ってくのはホント勘弁して欲しい。命令に従わなかった罰で減給されてもいい。
だが女兵士達の目もある。ヒゲ達の目もある。つうかさっきから女隊長こっち見てるし、スッゲー見てるし。
しゃーねえなあもう!
「はいはいおネエさん方、いくら伝説のお方に会えて嬉しいからって、ちっとやり過ぎよー。ほら眞王様が困ってらっしゃるデショー……多分……」
嫌々ながらヒゲ達に手伝わせて輪の中心に割り込んで行ったら、なんか楽しそうな顔を見つけてしまって言葉が途切れそうになった。女どもにもみくちゃにされながら、まんざらでもないって表情をしてやがったんだぜこのおっさんは! 人が決死の思いで助けに入ったってのに!
一気に戦意が喪失しかけたが、女兵士達も警備連中も本気で困っているみたいだし、それに一応、彼が国の重要人物であることには間違いない。この中によからぬ輩が混じっている可能性は薄いが、完全に無いとはいえない。
「ほら、どいたどいた。これ以上、眞王サマに無体な真似をするとバチが当たるぜ」
オレが発した、バチ、という単語に、騒いでいた女どもがピタッと静まり返った。甲高い声に負けないように、なるべく低く大きな声で言ったのが効果的だったらしい。自分で言うのもアレだが、こういう脅し文句を言うのにオレのしゃがれ声はうってつけだ。しかもこいつらはそのバチが当たるところを実際に目撃している集団だ。
静かになった隙に化粧品臭い場所から眞王を引っ張り出し、乱れた服を直してやりながら「そろそろ行きましょう」と促した。
名残惜しそうな溜息が場に充満したが、オレは高圧的な物言いを続けた。
「まだご用事がおありでしょう?」
「そういや、そうだったな」
ほっ放り出していた菓子袋を拾いに行きながら、ヒゲに商人達の被害状況を文書にして報告しろと告げていると、助けてやったのに当然ってツラした眞王は、舞台役者を見送る観客みたいな集団に、これまた花形役者みたいに愛想良く手を振りながら歩き出した。オレを待たずに。
にゃろう、助けてやった恩人を置いてくつもりか? だいたい、この荷物はあんたのだぞ、あんたの。あんたがレオンから巻き上げた菓子だろ! あいつが精魂こめて作ったんだからちゃんと持っていけやクソジジイ!
「そうそう、忘れる所だった」