小説2

□眞魔国的日常 06.10.25
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「若者はいいねぇ」

 逃げ惑う魔王を眺めながら楽しげな声を発した村田に、ヨザックは呆れたように突っ込んだ。
「……そういう状況じゃないと思いますがねぇ…しかしあなたってば何ジジ臭いこと言ってんスか。陛下とは同い年でしょ?」
「うるさいな、ジジイは自分だろ」
「違いますオレはおニイさんですっ!おネエさんでもいいですけどぉ」
「な〜にがお兄さんだ、ジジイだろ。三桁超えてよくもまあ恥ずかしげもなくそんな事言えるよねきみ…渋谷もだけどさ。まったく彼ときたら凄いよね。心臓に毛も生えてない僕にはどうやってもあんなこっ恥ずかしいことは言えませんよ。ああもう聞いたこっちが恥ずかしいっ!」
 両腕で自分を抱きしめてぶるっと身震いをした村田にヨザックは「ええー?」と不満顔だ。
「言ってくれても構わないんですけど。というかオレはぜひに、ああいう事をあなたに言ってほしいんですけどぉ?」
「思ってもないことは余計言えないなぁ」
「まったまた〜、もう猊下ってば素直じゃないんだからぁ」
 ニヤけた顔を間近で見せられて、おまけに人差し指で額を突付かれて、村田は溜息をつく。
「あのね、大賢者は魔王の『ためだけ』に存在してるんだよ」
 キラリと眼鏡が光ってしまったので、ううーと諦めたように唇を突き出してヨザックはがっくりと肩を落とした。そんな男を見た村田が苦笑したような小さな声で呟く。

「…でも村田健の『ん』くらいはきみのためにもあるかもね」

 聞こえた言葉に驚いたヨザックが顔を上げる前に少年はその場から逃げるように駆け出した。
「しーぶやー、その鬼ごっこ僕もまぜてくれないー?」
 声の調子は普段通りだが、走る度に揺れる黒髪からちらりと覗く彼の耳は赤い。
「バカかお前は、これはそんな遊びじゃねーよ!言うならば命をかけたサバイバルだ!」
「だって楽しそうなんだもん」
「ムラケンお前それギュンターと同じ所で買ったのか?違う店で作りなおせよ眼鏡!」
「こらー逃げるなユーリ!」
「ぎゃー助けてー!」
「鬼さんこっちこっち、渋谷より僕のが近いよ?」
「お前は関係無いだろうが、ぼくの邪魔をするなっ」
「そーゆうこと言わないで仲間に入れてよ〜。じゃないと渋谷とくっ付いちゃうぞぉ?」
「や、やめっ…村田これ以上ヴォルフを煽るな!」

 引き攣った魔王の肩に腕を回して笑う、まだほんのりと赤い顔の大賢者に、ヨザックも上がりっぱなしの口端のまま駆け寄った。
「オレもまぜて下さいな〜」
「じゃ、じゃあヨザックはヴォルフラムを押さえる役な!」
「はぁ?オニごっこってそんな遊びでしたっけ?」
 王の提案にヴォルフラムを見たヨザックは思わずその場で立ち止まる。
「…それはちょっと勘弁してほしいな〜」
「グリエ、ぼくの邪魔をすると命は無いぞ!」
 とうとう掌に炎を発生させた彼に、ヨザックは唾を飲み込んで幼馴染みに助けを求めた。
「隊長〜、陛下が閣下を止めてほしいんだって〜」
「俺は今忙しい。お前が頼まれたんだろう、お前がやれ」
「あんたの弟だろーが」
「俺は兄じゃないってさ」
「あのね…」
「頑張れよ」
「ユーリ、大賢者から離れろ!コンラート貴様もだっ!ぼくのユーリにくっ付くなあ〜〜ッ!!」
「うわっ、ヨザック助けてぇー!」
「…えーと…」
 どうしよう?と困り顔で立ち尽くすヨザックの後ろでその時、腰にくる重低音が響いた。

「お前達、仕事をせんか!」
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