小説2
□祭りの夜 07.3.4
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寂しそうなものを隠せてもいないのに、それでもオレに気を使う少女に「賛成!」と、はしゃいだように聞こえる声ですぐに賛同する。次に小さな体を持ち上げた。
「こーんなに綺麗な姿を見せなくてどうするってのよ、ねえ?」
「本当? グレタきれい?」
「ええ、さっきも言ったじゃない。綺麗よ、嫉妬しちゃいそうなくらい」
「グリ江ちゃんもきれいだよ?」
「あら嬉しいっ」
そのままクルリと二回転ばかり振り回して地面に下ろすと、膝を付いて目線を合わせた。
「でも夜にひとりで歩いちゃダメですよー。もし毒女でも出たらどうするの?」
「べつにどうもしないけど」
おっとそうだった、彼女には毒女は通用しないんだったよ。普通の子供なら泣いておもらしするところなのに、このお姫さんは自ら弟子にまでなってたんだった。
「じゃあどっかのスケコマシが出ちゃいますよ」
「どっかって…あのなヨザ」
「コンラッドならコマされてもいいもーん」
ありゃ、オレの手を離れて行っちまったよ。隊長はさっきのオレのように抱き留めると、いつもの笑顔で彼女の頭を撫でる。
「それは嬉しいなあ。でもあと十年…いや七年経ったらね」
「コラなんだその具体的な数字は! あんたまさかマジで狙ってんのか?」
慌てて姫さんを奪い返したら、「冗談に決まってるだろ」と返って来た。
「あんたが言うと洒落になんねーのっ」
「信用無いなあ」
「あるかボケ。こと女関係に関しちゃこれっぽっちも無いねっ!」
悲しそうに肩を竦められても、その胡散臭い顔をしている限り無駄だから。まあ本当はこいつが大事な大事な坊っちゃんの娘に手を出すわけはないさ。そんなこたあ充分分かってるけどさ、でも今までの付き合いで色々と知っているから全然笑えねーんだよ。
すっかり母親のような気分になってオンナの敵を威嚇してると、オレの腕の中で笑っていたお姫さんがまたさっきの言葉を繰り返した。
「またやろうね?」
期待を篭めた瞳に、口喧嘩を止めたオレたちは二人して同時に頷いた後、どちらからともなく小さな手を握った。ぎゅっと握り返してくれた彼女を真ん中に挟んで、もうすっかりできあがっているであろう連中の巣窟であるヒナマツリ会場ではなく、彼女の寝室に戻る道を歩いた。