小説3
□無敵2 2012.3.24
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「……ううう……夕べはちょっと飲みすぎたわ……」
目を覚ましたとたん、あたしは後悔した。心の底からものすごく後悔した。ジッとしているのも辛くて、布団の中で頭を抱えて、うーうー唸ってしまう最悪な朝だったから。
でも今日は休日だから、このまま寝ていても大丈夫なはず。あたしは少しでも辛さを和らげようと目を閉じて眠る努力をした。
だけどその時、今すぐ意識を失くしてしまいたいと切に願っているあたしの部屋の扉を、壊れそうな勢いでけたたましく開け放ってくれた人がいたの。
「ちょっとミルチェ、あんたいつまで寝てんのよ! 今日がなんの日か忘れたのッ!?」
ドアが立てた音と同じような大きな声で、がなりたてているのは隣に住んでいる幼馴染みだ。彼女――エイミーは大声を出すだけじゃ終わらなかった。ドカドカと足音荒くあたしの寝ている寝台の側までやってきて、掛け布団を引っぺがされる。
「……いきなり布団剥がないでよぉ」
寒いじゃないの。
なのにエイミーは二日酔いに悩まされているあたしのことなんか全然いたわらない。さっきより大きな声で叱られてしまう。
「やだ! あんたってばなんて格好してんのよっ?」
「……うっさいなあもう……あたしがどんな格好で寝ようがあたしの勝手でしょぉー」
「服くらい着なさいよね!」
「着てるじゃん」
「下着だけじゃないの! 年頃の女の子がこんな姿で恥ずかしいとは思わないの!」
ママみたいなことを言わないで。そしてキンキン声出すのもやめてくれないかしら。ただでさえあんたの甲高い声は頭に響くのよ。
そもそも他人の格好なんかどうでもいいじゃない。下着だろうがなんだろうが、まだ着てるだけマシじゃない。むしろあたしは今、自分が下着姿で良かったなぁって思ってるわよ。だって布団を返してもらえたもの。
はーやれやれ、と投げつけられた布団に丸まろうとしていたら、エイミーはいきなり、そうそう、そうだったわ! と慌てだした。せっかく取り戻した布団をまた剥がされてしまう。
「早く着替えてよ、出掛けるんだから!」
剥がされたばかりか、物凄い勢いで揺さぶられて、あたしは仕方なく目を開けた。
というより、あまりの振動に目を閉じていられなくなった、ってのが正解。
「今日はあの日よ、あの日なのよ! だから起きて起きて起きてよっ!」
じっとしているのでさえ辛いのに、こんな剣幕で上下に揺すられたら吐きそう。ていうか吐く。
あたしは力の入らない手で、それでもなんとかエイミーの腕を振りほどいた。だけどエイミーはあたしのことなんか全然気にしちゃいないみたい。ずっと同じことを繰り返している。
「だーからあの日なんだってば!」
「……なんかあったっけ、今日?」
お腹をボリボリ掻きながら訊ねると、エイミーの髪が逆立った。あまりのことに言葉が出てこないわよ! みたいな形相をしてからあたしを叱り飛ばす。
「馬鹿ねっ、今日は待ちに待った、陛下と猊下が街をパレードなさる日じゃないのっ!」