小説3

□夜 2012.7.1
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「なあコンラッドー」

 珍しく甘えてやろうと思ったってのに、そんないじらしくて可愛いオレに返ってきたのは薄情な言葉だった。

「懐くな、重い。今は任務中だ、隊長と呼べ」

 ポンポンと文句を言うだけ言って、こっちを見もしやがらねえ。後ろから右肩に凭れてみたオレの頭も、うざったそうにはたかれて強引にどかされる。

「つれねえのー」
「任務を忘れるな」

 これだから真面目なやつは。すげなく告げる言葉と態度には、どう好意的にみても親しみはこもってない。手にも全然含まれていなかった。はたかれた後頭部が痛い。

「つまーんなーい」
「うるさい」
「あーもう、ホントにつまんなぁいー」
「こら、キチンとしろ」

 本当に真面目なやつはこれだから。やっとこっちを見たと思ったら、オレの頭の心配じゃなかった。というか心配なんざ、はなから必要とされてない予感。

 だってオレの顔より先に、さっきからずっとさすっているこの頭よりも先に、こいつの目がいったのはオレの襟元だったからだ。
 こっちを向くなりコンラッドの眼は不機嫌そうに細まり、お説教が開始されてしまった。空けていた襟元だけじゃなく、腕まくりした袖まで注意される。自分だって首は留めてねえじゃねえかと反論すれば、ひとつならいいんだとか言って睨んでくる。

「いいじゃねえか。釦のひとつも二つも三つも、あんまり変わんねえだろ」
「ひとつと三つは全然違うだろ。お前のは腹まで見えそうじゃないか」
「いやんコンラッドちゃんったら、見たいなら早く言ってよ。ほらどうぞ、遠慮しなくていいのよぅ」
「見せなくていい、見たくないんだよ、釦を留めろ」

 ああんもう、つまんなーいと、身体を大袈裟に捩ってお色気作戦にでても、隊長様には通用していない。むっとしたように眉を動かしただけだ。むしろ余計に冷めた眼になって命令してくる。

「返事は?」
「へぇーい」
「返事は、はい、だ」
「はいはい」
「一回でいい。舌も引っ込めろ」
「はいはいはいっと、むぎゅっ!」
「俺は引っ込めろと言わなかったか?」
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