小説3

□ハッピーハロウィン 2014.10.31
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 そっと部屋を抜け出して行く後ろ姿を見つけてしまった。
 こんな夜遅くに、自他共に認める健康優良児がどこへ出掛けるのだろうか。真っ黒なフードを頭からすっぽりと深く被って、多分自分では隠れているつもりなのかもしれないが、あいにくその姿はこの国では一番、人目を引く格好だ。黒を身に纏うことが出来る人物がこちらでは限られているのを忘れているのだろうか。

「お出掛けですか?」

 歩き始めたので後ろから声を掛けたら、飛び上がって驚かれてしまう。慌てふためき、口を自分の手で塞いでから、ユーリはようやく振り返って俺を見た。

「……ああ、あんたかレレレのレー、じゃなくて、そんなバカボン的な声をかけてくるから村田かと思ったじゃんか」
「すみません、脅かせるつもりはなかったんですけど。というより俺のほうがビックリしましたよ、どこへ行くんですか、こんな夜更けに」
「どこって……」

 バツが悪そうにユーリが目を逸らした。その仕草にチクリと胸に痛みが生じる。俺に言えない所へ行くつもりだったのかと。

「ヴォルフラムはどうしたんです?」
「とっくにイビキが始まってるよ」

 だからといって、同じベッドに寝ていた相手が部屋を出て行こうとしていたら絶対気が付くと思うのだが。あいつは本当に武人なのだろか。
 少し甘やかしすぎたかなと感じるものの、今は弟のことよりも目の前の相手だ。目撃してしまった以上、魔王陛下の夜遊びを放っておけるわけがない。自分の心情的にも。

「で、どこに行く気だったんですか?」
「だから、それは……」
「どこなんです陛下?」

 優しく問いただすつもりだったのに、これから夜遊びに出かけるのかと思ったら、つい口調がきつくなってしまう。
 俺の剣幕に観念したのか、ユーリがようやく重い口を開いた。

「……あんたの所だよ」
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