小説2

□痴話喧嘩 06.10.14
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「ねえあなた、アタシと陛下のどっちが大事なの?」
「渋谷」


 またかよと思いながら村田がヨザックの問いに即当すると、彼、いや彼女は分かっていたはずなのに悲しそうな目をした。
 読みたい本が沢山あるので書庫に籠もりっぱなしだったら怒られた。いちいち本を持って、それも分厚い本ばかり持って、ここと部屋とを往復するのが面倒くさいからと文句を言えば、じゃあオレが運びますからと彼は聞かない。村田からしてみれば、最初の頃に運び込ませたフカフカの長椅子の上で、これまた運ばせた毛布に包まって寝転んで読むのも部屋のベッドで読むのも全然変わらないのだが、ヨザックは「ここは埃だらけで空気が悪いでしょう? それに冷えますし」と文句を言う。
 当たり前だ、本には埃が付きやすいものだし、書庫に暖炉などあるはずがない。けれど部屋に戻ってもあそこは広すぎて暖炉の熱も隅々までは行き渡らない。どうせ毛布に包まる事になるのならここでやってても同じだろうと思うのだが、しかし親友の名付け親から過保護が移ったらしいお庭番は「駄目です!」と突然キレて、強引に村田は部屋に連れ戻されたのだ。

 抱え上げられた拍子にその時読んでた本を図書室に落としてきてしまった村田は不機嫌だ。続きも気になる上に、無理やりそんな事をやられた事にも怒っている。いくら心配してくれているのが分かってはいても、人は楽しみを邪魔されれば腹が立つというものだ。静かなあそこでゆったり本を読むのが彼のお気に入りなのだから。

 こうみえて村田は書庫には色々と居心地のいいように手を加えていたりする。魔女に作らせた魔法瓶は常備してあるのでいつでも熱いお茶は飲み放題だし、軽食を頼むための厨房に繋がる釦も作らせたので、腹が減れば誰かが持ってきてくれる。本当は無線機のような物を希望していたのだが、さすがにそれは毒女にも無理だったので、ただ単にこちらが押すとあちらが光るだけの単純な代物なのだが、それでもいちいち言いに行く手間がかからないので便利である。ちなみに無線機は今度地球から持ち込むつもりだ。実物を見せればきっと彼女は面白い改造をしてくれるだろうと楽しみである。彼女に見せたい文明の利器のリストをどうやら村田は作っているらしい。
 まあそんな少し先行きが不安なフォンヴォルテール卿と眞魔国の話はともかくだ。

 どうしてそういう会話になったのか。不機嫌な村田とヨザックはさっきから言い争いをしていたのだが、それがいつのまにかこんな方向にいっているというのはやっぱり恋人同士だからなのだろう。
 怒っているのは村田の体を心配していると丸分かりのヨザックは、最初は「風邪でもひいたら」とか「これ以上不規則な生活をするつもりですか」とかまともな事を言ってたのだが、そのうち「なんで聞いてくれないの!」と女言葉に変わってしまって。
 とうとうハンカチを噛みながらの「アタシの事が嫌いなの?」という台詞が出た。そして「アタシと陛下とどっちが大事?」まで出た。それにうんざりした村田が親友の名を答えていつもは終わるのだが。
 しかし今日はいつもと違って続きがあった。

「じゃあ隊長とアタシなら?」
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