小説2
□お友達 06.11.7
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「ここですかグウェンダル……おや居ませんね。まあいいでしょう、誰かわたくしに協力しなさい」
唐突さには大分慣れたような気がしていたが、急襲されると動悸が中々治まらない。この人の場合は心臓に悪いなんて生易しい言葉では全然足りない。今すぐにでもここから逃げ出したいのは山々だが、唯一の出入口に陣取られているので室内の者に逃げ場はなかった。
「きょっ、協力、デスカ?」
「ええ」
どもった有利に悪魔がにやりと笑った。その笑顔は美し過ぎて全身にじんわりと汗が浮かぶ。今日はこんなに寒いのに。
毒女は本日も絶好調であるらしい。いや本日もというより、彼女が絶好調でなかった事などこれまでに一日もない気がする。現に有利は見た事がなかった。
彼以外の者も同じ気持ちなのか、引き攣った顔で皆してジリジリと後退している。だがそんな中で明るい声がした。
「ねえアニシナ、これなぁに?」
「グッグレタ!? バカ、訊いたりなんかしたらっ!」
「これですか? これは新作魔動装置、あなたの全てを知りたいの! 略してすとっぱー君です」
すでにもう遅いらしく、嬉々として悪魔が闇の発明品の説明を始めた。その名前につい有利が突っ込んでいる。でも怖いので小声でこっそりとだけど。
「押さえてどうすんの? それをいうならストーカーじゃ」
「いやいや渋谷、あながち間違ってない気もするよ」
魔王の横で大賢者がにこやかに微笑んだ。
「だけどもう出来たんだ、フォンカーベルニコフ卿ってば仕事が早いなあ」
「な、なんだと? 村田が頼んだのか、これ!?」
「うん」
「なんて事をしやがんだテメーは!」
「だってー退屈だったんだもんー」
「退屈で悪魔に魂を売るんじゃありませんっ! お前のお袋さんがそれ聞いたら泣いちゃうよ!」
「まさか、彼女は多分鼻で笑うだけさ」
「うっ…もしかしてお前のその性格は母親譲りなのか?」
一家全員眼鏡の友人宅を思い出して、そしてちょっと怖かった彼女を思い出して有利が眉を顰めたその時、ふんぞり返っていた悪魔がまた笑った。
「ではそういうことですので、早く魔力を供給しなさい」
「えっ!?」
「誰でもいいですよ」
カッと高らかな靴音と共に悪魔が一歩踏み出した。