小説2

□愛のゆくえ 06.11.10
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「……今回はまたえらいとこに出ちゃったな…」

 爽やかな朝の光の中では似合わないような顔でシミジミと息を吐き出した有利と同じく、村田も大きな溜息をついた。
「まったくだよ、本当にどうすんのさ渋谷!」
「えっ、なんでおれ? おれに言うなよ、ここに出したのは眞王様だろ」
 責められるいわれはないとばかりの顔に迫るのは、このまま突き刺してやりたいといった感じの人差し指。
「彼は関係ないね、きみがやったんだからさ」
「えっ…う、嘘ぉ?」
「嘘じゃないってば。来ようとしたのもここを着地点にしたのもきみだ、きーみー! …だからほら、いつも飛び掛かってくる熱烈激烈強烈親衛隊達もいないじゃないか」
「そんなあいつらを犬みたいに、まあ似てるっちゃー似てるけど、って…たち? ギュンターは分かるけど、たちって?」
「……いやそうでもないか。あそこに三号が」
「いったい何人いるんだよ、そのおれの親衛隊って…」
 いつものように突っ込みを入れながら親友の視線を辿った有利の目が零れ落ちそうな程に大きくなった時、辺りに野太い声が響き渡った。

「きゃあ〜っ陛下よ〜! 猊下も御一緒よ〜っ!」

 それは凄まじい歓声だった。
 朝市が催されている最中の、混雑した大通りの真ん中にある噴水に突然双黒の人物が現れたのだ。この国最高位の魔王と大賢者が、しかも水に濡れて、ただでさえ美しい姿が今は水も滴るなんとやらになっている二人が。今回は途中の水流が激しかった為に、現れた時には片方が上に乗っかっているという事態になっていたせいもあるかもしれない。
 だがそんな悲惨な道程など知らない、初めて彼等を目にする庶民からしてみれば、気分が最高潮になるのも無理はないだろう。陛下トトで一番売れている大賢者とのそんな艶姿に、そこいら中で黄色い歓声が沸き立った。
 だが小心者の魔王はいつもなら自分の事で騒ぎになったら慌てふためくものなのに、今はある一点を見つめて動かない。未だに上に乗ってる大賢者も同じ場所を見たまま苦い表情だ。

「陛下ー、猊下ー!」
「キャー、本当に超素敵ィー!」
「こっち向いてぇー!」
「やっぱりヴォルフラム閣下とは偽装なのー?」
「やったー俺は猊下一点買いしてるんだ!」
「ああん、あたし買ってなーい」

 などと好き勝手に騒ぎ立てる庶民の声に、
「なんだってぇ!?」
と有利の凝視している、親衛隊三号が居る場所の隣の窓がガラリと開いた。

 顔を出したのは柑橘色の髪の毛をした男。彼も上半身裸だ。しかも隣と同じく物凄い薄着の女が巻きついている。

「げっ!?」

 名称だか感嘆詞だか区別できない声を発した男を目にして、双黒の片方がゆらりと立ち上がった。
「…………渋谷…」
「……ああ、行こうぜ」
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