小説2
□取り合い 連載中
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「ゆーちゃん、っと健…じゃない、村田、でもない、弟のお友達も一緒か…」
家の近くの公園を通り掛かった勝利は最愛の弟を見つけて声をかけようとした。しかしそこに弟の友人兼恋人もいる事に気付いて僅かに躊躇う。
何故なら弟の前でボロを出さない自信がないからだ。付き合っているというのは秘密にしようと二人の間で意見が一致していたので、たとえ眼鏡の中に入れても痛くない可愛い弟といえど、有利には黙っていなければならない。いやむしろ可愛い弟だからこそ、黙っているというべきか。
ちなみに眼鏡の中に閉じ込めたとて、装着している者に痛みなどあるはずがない。ただ単に視界が悪くなるだけである。もっとも視力の悪い勝利にとってはそれは大問題だろうけど。
しかしいつもは二重の意味で妬けるくらい仲の良いはずの彼等の様子がなにやらおかしい。公園にある池の側でもめているようだ。
「あいつら何やって……んなっ!?」
いきなり恋人が弟の背中を押したのを目撃してしまった勝利は、慌てて隠れていた物影から飛び出した。
「有利っ!」
「えっ勝利?」
「勝利さん?」
「お前有利に何を…うわなんだこの渦! うわあっ!?」
「ちょっ、ちょっと、勝利さんは駄目だって…」
珍しく慌てた恋人の顔に驚きながら、それよりも浅いはずの池に突如発生した渦におののきながら、勝利は有利と村田の二人と同じように渦に巻かれた。
「陛下猊下お帰りなさいま…」
どれだけ待っていたのか、すでに崩壊しかかった顔でいつものように飛び付こうとした「熱烈! 突撃! 親衛隊!」の会員なんばー一番が、目の前の光景に両手を広げたままで固まった。
「……なんだここは!?」
池の中でズレた眼鏡を元の位置に戻しながら周りを見渡すのは、人型の魔族年齢でいうならば百歳前後の青年。愛しい魔王様と大賢者様に挟まれて呆然としている彼の瞳も、濡れて額に張り付いた髪の色も、この世界にはとてつもなく稀なもの。
当然のように雄叫びが上がった。
「双黒がもうひとりーっッ!?」
「おうわっ!? なっなんじゃこいつっ!?」
突如吹き上がった血飛沫に驚かない人間はいないだろう。しかもそれが鼻から出ているとあっては。更にそれを行っているのが見たこともないような超絶美形で、現代日本からしたらありえない格好をしているのだから。
「うあちゃー」
「来ちゃったよ」
「どうしよう?」
「んなこと言われても」
困り顔で顔を見合わせる少年等を勝利は厳しい表情で問い詰める。
「どこだここは、おい有利、なんだこの鼻血男はっ!?」
「えーと…あのな、勝利」
「なんで教えてくれなかったんだ!」
「――はい?」
「美少女だらけじゃないかここ! ああパラダイスッ!!」