小説2

□黒い悪魔 06.12.16
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「あっ渋谷!」
 遠くから親友を発見した少年が、頭脳労働専門と自称しているにしては珍しく走って側まで来た。
「どうしたダイケンジャー、なんか」
 用?と有利が言葉を最後まで口にするよりも早くに彼は掴みかかるように迫ってきた。

「筋肉知らない?」

「……えっと…」
 訊ねられた意図がわからない。
 筋肉って単語は普通、知っているとか知らないとかいう事では話題にならないはずだ。あるとかないとか、ついたとかつかないとか、そんな利用法じゃなかったか?腕や足がほいほい出歩いたりするわけがないし、というか、そんな事になったら怖いじゃないか。
 夜中にペタペタと足音やら腕音やらを立てて徘徊する筋肉質な手足…どうしよう、赤い魔女ならそんな物ですらナチュラルに作ってくれそう!
 「恐怖!魔の国の古城に怪しげな筋肉を見た!我々の行方を遮るのは魔物か、それとも悪魔が生み出した残酷な実験生物のなれの果てなのか!?今夜明かされる悲劇の伝説!」とかいう二時間番組の見出しを思いついてしまった有利は、そうしてからやっとある人物に思い当たった。

 そういや「筋肉」と呼んでも全然構わない人物が身近に居たっけ。いやホントはもう一人、こっちはホントに自分が英語で「筋肉」と呼んでいるのだが、現在彼はロンリーハートな自分探しの旅という名の、国をも巻き込んだ大規模な家出中だ。
「もしかしてヨザックのことか?」
 苦笑して訊ね返した有利に、だが村田は更に勢いを増して迫って来た。

「当たり前だ!筋肉って言ったらアレに決まっているだろう、筋肉ニクニク憎たらしいっ!っていうアイツしかいないじゃないか!」

 彼の黒い眼は座っていた。ただ座っているのではない、いうならば白いジャージ着たヤンキーが「ああん?」とか言いながら田舎のコンビニの前でしているような座り方だ。時代遅れとかいう問題ではなく、まさにそんな感じで柄が悪いのだ。…いやそんなチンピラのものではこれはとうてい言い表せないかもしれない。そこからもう少し進化を遂げて、ツヤツヤした柄シャツにぶっとい金のネックレス、何故か白い靴をサーカスのピエロみたいに尖らせて中途半端な彫り物を入れた、歯が溶けかけているパンチだかアイパーだかいうチリチリしている髪型の、いかにも鉄砲玉というこれまた時代遅れのチンピラのう○こ座りかもしれない。
 まあなんにしろ、こんな顔を間近で見せられた方はたまったもんではない。

「み、見てナイデス」
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