小説2

□偉大なもの 07.4.3
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 なんであいつはいつもいつも僕のしてほしいコトが分かるんだろう。

 本読んでる時、喉が渇いたなぁとか思ったら途端にお茶が出てくるんだ。
 お湯沸かす時間や茶葉を蒸らす時間を計算するに、これって僕がそう思う前にもう準備を始めているってことだよな? なのに絶対ドンピシャなタイミングで出てくるんだよねぇ…しかも僕が飲みたいなって思った銘柄でさ。
 
 ああそういえば本棚の上のほうの本も、僕が取ろうとする前にすかさず横から目当てのを手にして「これですかぁ?」ってあの生意気なウサギみたいに笑うんだよな。まだ手を伸ばしてすらいないのに、なんで僕が読みたいなと思ったのがこれだって分かるのやら。

 もしかして僕にはなにかのパターンがあるのかと数日意識して過ごしてみたけれど、でも全然思い当たらなかった。喉が渇いた時なんかは無意識にある仕草をしているのかと顔見知りのメイドさんにも聞いてもみたけど、どうやらそうじゃないみたいだ。
 じゃあなんでなんだ? なんであいつには分かるんだ? ああ気になってイライラする!


「なあ村田」

 ティーカップを見たのでつい最近の疑問を連想してまた考えこんでいたら、渋谷が僕に話し掛けているのに気付いた。
 あっちゃー全然聞いてなかったよ。しょうがないからここはわざとふざけた返事をしよう。
「なーに原宿君?」
 そら思った通りに「原宿言うな」と文句だ。
「いいじゃん、ウェラー卿やフォンビーレフェルト卿みたいに、僕にもいつもの台詞ってのが欲しいんだよー」
「なんだよ、そのいつものって?」
「『陛下言うな』や『へなちょこ言うな』に『原宿言うな』も加えてよ」
「あーのーなー」
 案の定に不満たらたらな顔をしちゃって。本当に可愛いんだからなきみは。あの二人がいつもわざとあの台詞を言っているのもすっごくよく解るよね。しかしホント似た者兄弟だよねあそこもきみんちと同じでさ。上のが可愛くないのも兄が弟大好きなのもそっくりだ。

 もうすっかり見慣れている疲れたような顔で、それよりもさ、と渋谷は僕を見て溜息をついた。
「ちょっとひとの顔見て溜息付かないでくれるー? 僕の幸せが逃げちゃうだろ」
「いったい誰のせいで溜息付いていると…むしろお前がおれの幸せを返してくれ、じゃなくて!」
 またしても盛大な息を、向かいに座っている僕の髪が揺れるくらいに吐き出してから彼は真顔を作った。

「おれ前からずっと思ってたんだけどさ、お前もうちょっと優しくしたらどうなのよ?」
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