小説3

□夜 2012.7.1
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 こういう顔になったコンラッドの声は低く、迫力を増す。兄君とは毛色が少々違うが、充分に凄みがある。しかも今は額をつき合わせるような体勢で笑みを浮かべられているから、余計に威圧感が半端ない。普通の奴がこれをやられたら、何も悪いことをしてなくても謝っちまうだろう。

 しかし低い中にもオレに対する軽い調子が含まれているから、まだ大丈夫だ。ここはわざとらしく痛がってみせることにしよう。

「い、いひゃい、いひゃいから、はにゃひてたいひょー」
「なにを言ってるか判らないな」
「あにょへー」

 オレの舌をひっつかんで引っ張り続けているコンラッドは、もがいているオレを見て眼を細める。さっきとは違う意味で。

「うるさいぞグリエ」

 口で咎めながら笑ってやがるよ。なんてやつだコノヤロウ。大袈裟にしているとはいえ、本当に痛いんだぞコレ。

「はなゃひへしょーはいほー」
「だから何を言ってるか判らないんだってば」
「はにゃへー」

 強い光を点した銀色の光彩とは裏腹に、愉快そうに目元を和ませたコンラッドが、ふいに顔を近付けてきた。

「いひゃいんだっへ……んうっ?」

 合わさった唇から指と入れ代わりに舌が侵入してきて絡んでくる。唐突な行為に、思わず反射的に反応してしまった。
 隊長様が口を押さえて睨んでくる。

「……なんで噛むんだ?」
「んーと、つい? なんとなく?」
「あのな」
「だっていきなりでビックリしたしィ」

 指で確かめるように舌を触っている男に、今度はこっちが笑いながら言ってやる。

「だいたい今は任務中なんじゃなかったっけ?」
「……たまには息抜きもいいさ」
「んだよそれ、隊長サマってば勝手ですことー」
「黙れ」
「いいえぇ〜黙りませ……っ」
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