小説3
□夜 2012.7.1
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ムッとしていた顔がスッと引き締まったと思ったら、またコンラッドは突然唇を合わせてきた。後頭部をグッと掴まれて引き寄せられたオレは、前屈みの姿勢のまま奴の舌を受け入れさせられる。優しさの欠片もない強引な腕に重心がぶれ、右手を壁に着いてやり過ごしていた間に絡んできた舌は、結構強く噛んだはずなのにいつも通りに動いている。まったく、意地っ張りめ。
忍び笑いながら、噛んだ場所を重点的に舐め返してみたら、力一杯吸われた。そんな必要はないとばかりに。ホントにコイツは意地っ張りだ。
だがそんな乱暴といってもいいほどの接吻とはいえ、こうまで深いヤツをされちまうと、こっちもその気になってくる。それで壁に置いていた手を奴の腰に回そうとしたんだ。
なのにその手を振り払うようにコンラッドのヤツは突然、行為を止めた。始めた時と同様に、本当にいきなり。
「……あのーコンラッドさん?」
「なんだ?」
「なんだじゃないっしょ、なんだじゃ。なんなの急に」
「任務中だろ」
だろ、って……ココはそんな良い笑顔を見せる場面? んな真っ白い歯を輝かせるトコだっけ? 今は下穿きを脱いだり脱がせたりするところじゃなぁい?
「何もないフリなんかできなくなっちゃったんですけどー」
「夜明けまで我慢しろ」
「よーあーけぇ?」
今何時だと思ってんだよ! まだまだ夜は始まったばっかなんだぞ!
なのにコンラッドはこっちの気も知らずに憎たらしい笑みを浮かべている。
「……なあ…」
手を伸ばそうとしたら腰の剣に手を掛けやがるから、触ることすらできねえ。クッソー、コイツの腕が憎い。コイツじゃなかったら強引に持ってけるのに。
そのくせ思わせぶりに微笑みやがるときたもんだ。
「交代時間になったらな」
微笑みのままでオレの首の釦をはめてきた男を、もうホントどうしてくれようか。
手ぇ出したいのは山々なのだが隙がない。マジでどっこにもない。さすが、腐っても隊長サマだ。ムカつく。
疼く身体をもてあましてオレは天を見上げた。
「戦闘始まらないかなー」
「不謹慎なことを言うな」
「だあってジッとしてらんないのよっ」
誰かさんのせいでねっと付け加えても余裕ありげにしている男のせいで、ジリジリしながら見張りを続行するハメになったオレは、今すぐ敵が攻めてくればいいのにと本気で願った。そんでそれを口に出してまた後ろ頭をはたかれた。
「……いってぇ…」
けどそれでもコイツの隣を離れたくない自分に笑えてくる。つくづくオレってバッカだよなあと思うんだが、やっぱりコイツの命令には従ってしまうらしい。
わあったよ、夜明けまでこの試練に耐えてみせやしょうや。
けどこぉんなにオレに無理させるんだから、任務終了のあかつきには覚えときやがれよ、隊長さん。