小説3

□ハッピーハロウィン 2014.10.31
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「俺の?」

 予想外の場所に面食らっていると、ユーリは俺の顔に手を伸ばし、軽く頬を抓ってきた。

「つーか何度も言ってんだろ、陛下言うな」

 俺を見上げる少し不満そうな、しかし優しく笑うその表情に一瞬息が止まった。黒いマントに包まれた黒髪黒目の美少年に、こんな至近距離で微笑みかけられたら、この国の誰だってこうなってしまうだろう。普段から見慣れている俺すら、こうなのだから、ギュンターならきっと出血多量で倒れているに違いない。
 見とれていた俺が謝罪を口にするより先に、ユーリが次の言葉を発した。

「トリックオアトリート」
「――え?」
「お菓子をくれよコンラッド」
「……ええと、すみません、もう手持ちは全部グレタと女性陣にあげてしまいました」

 頬を抓られていた右手が俺に向かって差し出され、慌ててポケットを探るが、すでに飴玉の一個も残っていなかった。
 するとユーリの笑顔がニンマリとした意地の悪そうなものに変化する。

「てことは、あんたにイタズラしてもいいってことだな?」
「ええっ?」

 ユーリは豪快に笑うと、俺の手を取って歩き出す。

「んじゃ行こうぜ」
「え、あの、陛下?」
「陛下言うなっつってんだろ。もうこれはイタズラ追加が決定だな」
「そんな! って、ですから陛、いえユーリ、いったいどこへ?」
「さっき言ったじゃん。あんたの所だってば」
「俺の部屋……ですか?」
「そう、あんたの部屋。いっぱいイタズラしてやるから覚悟しろよなコンラッド」

 俺を引っ張るように歩いて行くユーリの、らしくない強引さに戸惑っていたら、その勢いのせいでフードが脱げた。あらわになった彼の黒髪の間から、チラリと耳が覗く。
 この暗闇でも判るほど赤くなっているその耳に、俺はまた息を呑んで、そうしてそっと唇を寄せた。

「お手柔らかにお願いしますよ」

 囁いた途端、もっと染まった耳に俺は更に告げ足した。

「トリックオアトリート」
「……はあ?」
「あれ、ユーリはお菓子持っていないの? じゃあ俺もイタズラしていいんですよね?」

 今の俺はきっと先程のユーリのような微笑みを浮かべているんだろう。なにしろ自分でも判るくらいに口元が緩んで仕方ない。
 ちょっとの間だけポカンとしていたユーリは、耳だけじゃなく顔まで赤くしてから、小さく「勝手にしろ」と呟いたけれど、引っ張る力はそのままで、俺の部屋に向かって進んで行った。
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