小説3

□うちの隊長 2015.4.3
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 冷え冷えとした石壁から水が滴る音が耳障りだ。ピッチョン、ピッチャンと不定期に、しかし永遠に聞こえ続けると、ただでさえ苛立った神経に触る。
 まあおかげで水分は補給出来てるから助かってはいるが、それでも火の気も灯りも無い牢では寒々しさに拍車をかけているのもあって、いいかげん嫌になっていた。ただでさえ身体中が痛むのに、隣の客は精神に異常をきたしているらしく、唐突に、それもしょっちゅう叫び出してくれやがるから睡眠も満足に取れてない。

 あーあー、とんだ貧乏クジ引いちまったなぁと、オレは暗闇の中で天井を仰いだ。その少しの動きでジャラリと鎖が鳴る。いつもなら気絶した後は床に放置されるのに、オレの両手の手鎖は未だ天井からぶら下がっていた。
 職務怠慢だろあいつら、捕虜をなんだと思ってるんだか。立ったまま長時間ってのは想像以上にキツイんだぞ。
 って、大事に扱う気があるなら、そもそも拷問なんかしないがな。

「何日目だっけ、今」

 窓も無い地下牢はずっと闇に閉ざされているからハッキリとはしないが、食事と拷問の回数からみて多分六日、いや七日か? 食事はオレにはほとんど出てないが、隣には毎日運ばれている。人の食いもんじゃないようなマッズイのがほんのチョッピリだから、羨ましくもないけどな。
 つくづく、うちは良い国だと、こういう時ほど実感する。眞魔国の捕虜収容所は此処に比べれば天と地くらいにかけ離れているからだ。悲鳴はともかく、血と汚物の臭いなどは充満していない。むしろ不相応なほどに清潔だ。収監者から情報を引き出すために何度か潜入したことがあるが、飯も旨いし便所もあった。入浴だって定期的にちゃんとさせてもらえる。

 っと、祖国に想いを馳せている場合じゃねえな。まったく、ツイてねえぜ。こんな牢くらい針金一本でもあれば出られるってのに、素っ裸に剥かれて鎖に繋がれちまっては、さすがのオレサマでもどうしようもない。椅子に縛りつけられて、とかなら隙をみて繋ぎ目から釘なんかをちょろまかせるんだが。
 手鎖に練りこまれている法石は混血のオレには全然問題ないが、弱ったフリをするためにあえて効いている演技をしている。おかげで拷問も短時間で済んでいた。気絶したフリにすーぐ引っ掛ってくれるんだよな、あいつら。ぜんっぜん痛くも痒くもないのに、法石の塊を押し付けてくるのにはちょっと疲れるけど。必死に堪えている演技すんのも飽きたし。

 まあ一番飽きているのはこの牢だけどな。裸で過ごす事は正直言うと慣れているが、それでも床も壁も冷たい石で出来ている狭い空間でじっとしているのは楽しくない。頑丈な身体の持ち主じゃなかったら、あっという間に弱っていたことだろう。隣には狂人がいやがるので、精神的にも良くないし。
 ホント、掴まったのが誰かさんじゃなくてオレで良かったぜ。

 とはいえ、いいかげん引きこもり生活にも飽き飽きしていたから、持ち前の怪力で鉄棒と石壁の隙間を広げている。造りが古いのと地下水の浸食のおかげで最初から接合部分がかなり緩んでいたから、あと二〜三日もあれば鉄棒は抜けそうなところまでいっていた。ここの鉄格子の間隔は広めだから、一本でも抜ければ何とかなるだろう。この自慢の筋肉が通れれば、だが。

 けど今日の作業は無理かもなあ。あいつらは職務怠慢だから、一度出て行くと当分はやって来ない。というか、なんだか慌てて出て行ったが、ちゃんと明日も来るんだろうな? まさかこのまま何日も放置とか、しないだろうな?
 少しだけ不安になったが、考えてもしょうがないことは頭から追い出した。しょうがないから睡眠でも取ろうっと。隣が静かなうちに眠っておかないとな。今やれることも無いし。

 キツイ体勢に諦めて目を瞑った時、突然懐かしい声がした。数日しか経ってないのに、何年かぶりに聴いたような気がする声が、光と共に暗闇の中に飛び込んできたんだ。

「ヨザック生きてるかっ!?」
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