小説3

□うちの隊長 2015.4.3
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 声のした方角を見ると、牢と廊下を隔てている扉が開いていた。拷問官と食事係が来るとき以外は閉まっているその扉から走りこんできた人物の声と同時に、ガチャリと牢の扉が開く。
 鉄格子の端に開いた狭い入口から覗く瞳には銀の星が散っていた。

「……やぁだ隊長、アタシ惚れ直しちゃったかもー」
「冗談を言えるなら走れるな、急ぐぞ」

 扉と同じように手早く鎖の鍵を外すと、コンラッドは剣を投げてきた。金属の塊を受け止めた拍子に長時間、吊られていた腕が痛む。

「あてて、ちょっと、オレ今の今まで拷問されてたんだけど、労わりの言葉とかないわけぇ? とっ捕まったのもあんたを庇ったせいなんだけどぉ?」
「だから助けに来てやっただろう」

 当然のように言うなよ。隊長自ら敵陣に飛び込んでくるかよ普通。しかもよく見りゃ単独だぞ? たった一人の部下のために、第二王子様が、こんな場所までノコノコやって来るとか。
 まったく、コイツはこれだから。
 呆れたのと、あと別の感情で複雑なオレは、ついイヤミを言ってしまう。

「もっと早く来て欲しかったんですけどぉ」
「すまない、居所がなかなか掴めなかった」

 今度は素直に謝られてしまって気持ち悪くなり、手の中の剣を握り直した。落ち着かないのはこいつの格好のせいもあるんだろう。敵の制服を着ているからだ。この剣もオレのじゃない。侵入する途中で拝借したんだろう。多分、その制服の持ち主から。​

「なあ、オレの服はないわけ?」
「……いるのか?」

 入口から廊下の様子を伺っているコンラッドに訊いたら、真面目な顔で訊き返されて声が軽く裏返った。

「いるに決まってんだろ! 見ろよ、素っ裸だぞ? こんな格好でお外に行くなんてアタシには恥ずかしくってできないわよぅ!」
「そんなはずがアライグマ」

 コンラッドの奴がそうのたまった途端、辺りに冷気が漂った。慣れたはずの石床が足裏に猛烈に冷たく感じる。オレも出してくれーとギャーギャー騒いでいた隣の奴まで静かになった。

「…………なに、今の?」
「え?」

 訊きたくないが訊いたら、心底ビックリした顔で問い返される。

「冗談だけど」
「えっ、冗談? 冗談なの今の? ちょい待て、もしかしてオレの知ってる冗談と、あんたの考えてるモノって、合致してなくない? いやもしかしなくても別個のモノだろ? 全然違う代物だろ?」
「……面白くないのか? なんで?」
「なんでって……」

 ムッとしたように訊かれたけど、面白くないから、としか言いようがねえよ。ていうか、全然意味がわかんない。なんでそこで熊が出てくんのか、オレまじでさぁっぱり、わっかんねえもん。
 けどコンラッドは王子様らしからぬ表情で人差し指を立てる。そして出来の悪い教え子に対する教師みたいに喋りだした。

「いいか、これはな、あるはずがないと、アライグマをかけた高度な冗談だ」
「こおどーぉ!?」
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