小説3
□うちの隊長 2015.4.3
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驚きのままに声を出したら隣の狂人とハモッた。あまりの衝撃に奴は正気に戻りかけているらしい。
知らなかったぜ、ウェラー卿コンラートにこんな恐ろしい力があったとは。前から凄い奴だとは思っていたが、本当に敵じゃなくて良かったよ。
溜息をつくこっちの心理にさっぱり気付いていないらしい、いつもは鋭いのに変なトコだけ鈍い男はまだ喋り続けている。どこからその自信が出てくるのか謎だが、妙に得意気だ。
「そこにお前が酔うと裸で外をうろつき回る酒癖の悪さも練りこんで、さらにネタを昇華をさせてだな……」
「あーいい、いい、解説すんな。頼むから解説すんな。誰かに頼まれても解説すんな。金輪際、二度と、解説すんなったらすんな!」
首と手を振ったら足がふらついた。なんかもう、脱力どころの話じゃない。
「今ので足が萎えた。隊長おぶって」
「馬鹿言ってないでさっさと……おい、まさか本当に動けないのか?その傷はそんなに痛むのか? いったい何をされたんだ?」
鉄格子に寄りかかって動こうとしないオレにコンラッドが初めて顔色を変えた。
その心配そうな顔を見たら疲労困憊なんて言えねえだろ。
「んー、そうじゃなくて、腹へってんの。なんかない?」
オレの身体中に目をやっていた真剣な顔があっちゅう間に崩れた。軽く眉を寄せてから、「これでもしゃぶってろ」と小さな袋を投げてくる。
巾着袋を開けるとカラカラに干からびた物体が入っていた。
「干し肉ぅ? もっと胃に優しいもん無いの? オレずっと絶食状態だったんだぜ」
「嫌なら外に出るまで我慢するんだな……っと!」
水嚢も腰から外していた時、敵兵が駆けつけてきた。コンラッドは革の袋を外すやいなやオレに投げつけ、戦闘を開始する。
「うーわあ、さすが剣豪で名高い閣下! すーてーきーぃ!」
久方ぶりの新鮮な水で口の中のサビ臭さを洗い流しつつ声援を送ると、一太刀で排除した敵の服を剥ぎながら睨んできた。
「茶化すな。行くぞ」
「あいよっ」
渡された気色の悪い温もりの残る衣類に足を通しながら干し肉を口に放り込み、隣の牢にもひとかけら投げた。コンラッドも手の中の鍵を投げる。この狂人が陽動になればいいけどな。
だがコンラッドは陽動のつもりだけで鍵を投げたんではないことも解っている。見ず知らずのこんな奴でさえ、こいつは助けてやりたいと思ってるのだ。余裕があれば一緒に連れて逃げることだろう。魔族とか人間とか、そういう事とは一切関係なく。
そんな父親譲りの優しい男だからこそ、このオレもついて行くのだ。
この男に、ずっと。