小説3

□六月六日 2016.6.6
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「ムラケン、明日うちに泊りに来ねえ?」

 渋谷からそんなことを言われたら、期待するなっていう方が無理だろう。
 この台詞はよく言われるけれど、渋谷のママさんにも言われてるけど、いやどっちかというとジェニファーさんからの方が多く言われているけども、でも毎回この言葉を聞くと心が弾む。
 今までこんな深い付き合いの友達はいなかったから、お泊りに誘ってくれること自体が嬉しいんだけど、でも明日に誘ってくれたのが、いつもよりもなおさら嬉しい。

 なにしろ明日は僕の誕生日だ。

 去年は朝のテレビ番組のせいで七月三十一日が僕の誕生日だと勘違いしてたけど、もう渋谷は僕の誕生日を知っている。そして週末じゃなくて月曜日に泊まりに来いだなんて言い出すということは、なにか画策しているんだろうということがミエミエだ。元から渋谷は隠し事が下手だってのもあるけど、完璧に顔に現れてしまってるんだよねぇ……きっとジェニファーさんからさりげなく誘えとでも言われたんだろうな。

 渋谷家はとても暖かい。まさにアットホームの見本みたいな家族だ。口では反発してるけれど、兄弟の仲もとても良いし。……まあお兄さんの方はたまにちょっとあれだけど、母親もかなり普通じゃないけど、でも家族愛は有り余るほど、それこそ多少売っても全然大丈夫なくらい、ふんだんに溢れている。
 いやうちだって無いわけじゃないよ。ちょっと放任主義すぎるだけで、もし僕になにかあればどんなことだってしてくれるはずだ。ただ僕があまりにも優等生で手が掛からないから、あの人達は心配するということを忘れているのと、仕事が大好きってだけで、僕に対する愛情はちゃんとある。プレゼントも毎年用意してくれてるし、帰ってこられる時はデパートで高いケーキも買ってきてくれる。ついでに言うと、普段のお小遣いも多い。

 といっても僕が元々そんなに誕生日を気にしてないんだけど。両親がいなくても拗ねたこともないし。
 ケーキくらいは食べたいとはいえ、別にコンビニのでも問題ない。実際、クリスマスはモスで買ったしねチキンとケーキ。ちなみにおととしまではミスドだった。店が潰れなければ去年もそうだっただろう。

 だけど渋谷家は違う。渋谷母はイベント時には張り切って料理を作る。普段から手の込んだ料理を作ってるみたいだけど、イベントの時はもっと手が込んでいる。クリスマスにご相伴にあずかったシチューやパイは前日から用意していたらしいから、きっと今も準備している最中なんだろう。いつものあの山盛りの唐揚げも多分あるね。きっとあるね。それからパティスリー・カサイのケーキも。

 よその親御さん達の優しさにそんなに甘えていいのだろうかとも思うけれど、でもジェニファーさんも勝ち馬さんも、いつも裏表のない笑顔で迎えてくれるから、ついご厚意に甘えてしまうんだ。僕のためにそんなことをしてくれるというその気持ちが嬉しくて、いつも遠慮なんか出来やしない。白眼鏡……お兄さんの嫌味も実は全然気にならないというか、正直いうと彼をからかうのはとても愉しかったりする。
 もちろん、渋谷の笑顔が一番嬉しいんだけど。

 別れる時の親友の顔を思い出しながら僕は携帯に付けているストラップを見た。去年に渋谷がくれたミスター・ピッチのストラップは、くれた本人が「青カビの生えたカマボコ板」とか言っちゃってたけど、実は僕もそう思う。人型の芝生なんてシュールなキャラクターのストラップなんて、渋谷のプレゼントじゃなきゃ絶対に自分じゃ手には取らないし、彼以外の人から貰ったら捨てるかもしれない。というか、あのキャラでグッズ出すなら食器洗い用のスポンジを出せばいいのにとか思ってる。

 だけど渋谷がくれた物だからこれは大切なんだ。初めてできた親友からの贈り物ってだけでもう宝物だけど、これは地元の外まで行って買ってきてくれたみたいだし。一緒に貰ったミニタオルも大事にしまってあるよ。カールだけはその場で食べちゃったけど……なんでカールだったのかという理由を聞いた時は脱力したけれど、おかげで思い出すたびに笑えるんだ。

 笑いながら僕は青カビの生えたカマボコ板を指でつついた。こんな物をわざわざ探しに行ってくれた渋谷の心境を想像すると余計に笑いがこみあげる。これなら絶対喜ぶから、なんて言い切ったお兄さんは少しとっちめたかったけれど、グッズ売り場で残り少ないお小遣いを考慮しながらストラップとミニタオルを選んでいた親友を想像したら、虐めるのはやめておいてあげた。

 今年はどんな物を僕にくれるんだろう。

 大分くたびれてきている緑色の人型をしみじみと眺めながら想像したけれど、当然ながら答えは出ない。これは明日までのお楽しみだ。
 本当は大好きな親友に無理はしてほしくないからプレゼントなんか必要ないんだけど、でも渋谷が今度はどんな面白グッズを僕のために用意してくれているのかと思うと、早く明日の放課後にならないかなって待ちきれなくなるんだ。
 その時にはビックリした素振りをしないとな。そして来月はどんなものを彼に贈ろうか。去年渡せなかったあのプレゼントもどうしようか。

 ベッドの中で目を瞑ったけれど、今夜はなかなか寝付けそうにはないのが自分でも分かって僕はまた小さく笑った。





 本当は前日にupしたかったけれど間に合わなかった……そして自分も書いといてなんだけど、もし何も貰えなかったなら悲しいなコレ……いや有利は絶対に何かくれるはずだから!きっとくれるから!
 もう何回目を祝ったか自分でも分からないけど、ダイケンジャー健様、お誕生日おめでとうございます!
 2016.6.6
 

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