小説2
□慕情3 2012.2.14〜連載中 最新更新2014.6.11
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心の声が届いたのか、歩き出していた眞王が振り返った。てっきり菓子袋の心配かと思いきや、なぜかオレに向き直る。
「見せてみろ」
「は? ……ああ、いえ、平気ですから」
「いいから見せろと言っている」
「はあ」
見せろというから仕方なく腕を差しだしたのに、オレが袖をまくった途端、眞王は大笑いを始めた。
「これはまた、えらくクッキリ残ったものだ!」
なんともムカつく感じの笑いだ。あんたのせいだろーが、あんたの!
ケラケラ笑いながら眞王はオレの歯型付きの腕を掴んだ。たちまち痛みが襲ってくる。同時にビチビチと肉が塞がるあの不愉快な音が身体の中から聞こえだした。
あんたホント、相手に心の準備をぜんっぜん、させやしねーのな!
「……っ」
「無理をせずとも、叫んでいいんだぞ。さっきのあやつみたいにな」
いきなりの激痛に襲われてもジッと耐えているオレに、加害者が鼻で笑いながら言う。
誰が叫ぶかよ。んなみっともない真似は御免だ。
「……べつに、痛くないんで」
隊長ばりの笑顔を作って見せたら、眞王はますます笑いやがった。何もかも見透かしたようなその眼がほんっとうに気に食わない。なのに今までで一番近くに来られたせいで、その青い眼がよく見えてしまう。
普通、真っ青な瞳は光の加減によっちゃ緑にも見えたりするもんだが、この男のものはどこまでも青い。空……じゃねえな。これは海だ。南の島の、底の珊瑚礁まで見渡せる透明度の高い、明るい海の色をしている。
だがそんな澄んだ色をしているくせに、瞳の奥の心の中は決して覗けない。まるで光も届かない深海の、更にその先のもっともっと深い場所のように。
矛盾する眼を持った男がまた笑う。
「やせ我慢しおってからに」
小馬鹿にしたような態度が本気で癇に障る。相手が彼じゃなきゃ、力の限り殴っているだろう。怪力のオレが加減無しで殴ったら、当分寝台から起き上がられねえんだぞクソッタレ。
だが悔しいことに、治療は完璧だった。肉がえぐれかけた深い噛み傷が、あっちゅうまに治っていってしまう。火だるま男の消火活動中に掌に負った火傷すらも全部、治っていった。
ムカつく。陛下風に言うなら超ムカつくだ。閣下風に言うなら腹立たしい、だ。アニシナちゃんみたいに豊富な語彙を持っていない自分にも苛立ってしょうがない。
とにかく、最上級にムカつく!
それでも治療してくれたんだから、一応は礼を言わねばいけないだろう。お偉いさんだし、人目もあるし。
「……どうもありが……」