小説2

□慕情3 2012.2.14〜連載中 最新更新2014.6.11
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 本音がダダモレだぞおっさん! つか姉はともかく、母親もかよ。守備範囲広いな、さすがクソジジイ。
 言ってる事は最低なのに、偉そうな態度はいつでも健在だ。美人を三人も確保したくせに、まだ他の女も手招きする。

「お前らも来い。どのみち二人や三人分の魔力では足りん」
「はっ、はい喜んで!!」

 誘われた途端、一変してどっかの居酒屋店員のように元気良く答える女兵士達。全員もれなく頬を赤らめて期待に潤んだ瞳になっている。

「ちょっとぉ!」

 あんた何考えてんだよ。
 しかし咎めるオレを眞王は軽ーく受け流す。

「お前は先に帰っていろ。荷物は俺の部屋に運んでおくように」
「いや、あのねえ!」

 オレなんかより菓子の事が優先らしい。どこまでも貪欲だぜこのおっさんは。ああ、ここまで運んだ自分が憎い。あの定食屋に置いてくりゃ良かったぜ、クソッ。
 上着脱ぐ時に思いっきり放り投げたんだから、潰れたり割れたりしてるだろうってことは確実で、それだけはちょっといい気味だが、でも実は焦げてたりもしねーかなぁ。いやあのレオンが、んなもんを眞王に捧げたりはしないか。一番綺麗なのを詰めたに決まってるわな、チクショウ。いっそ袋の上から握りつぶしてやろうか?

 オレが不穏な考えに意識を逸らかけていたら、人に命令した後で眞王は思い直したように女達を見た。

「いや、そういやお前達も甘い物が好きだったな。美味い焼き菓子を手に入れたのだ、食うだろう?」

 運んでおけと言ったくせに奪われた。足が消えかけてるくせに素早いなオイ。つーか食いたいのはあんただろ。
 けどまたニッコリと笑いかけるもんだから、女どもはみんな騙されて頬を染め、頷いている。

「はいっ! ありがとうございますっ!」
「ありがたくご馳走になりますっ!」
「あ、でもうちの母もお菓子作り得意なんですよ陛下。今日もパイを焼くと言っておりまして」
「おお、マーガレットの手作り菓子は近所でも評判だったな。俺も一度食べてみたいと思っていた」
「じゃ、じゃあ、ちょっと取ってきます! うちもすぐそこなんで!」
「楽しみにしてるぞ。ついでに母親も呼んで来い、お前同様、魔力が高い」
「はっ、はいっ! 眞王陛下のお役に立てると聞いたら母も喜びますっ!」
「ちょっと、あのーってば、おーい、おっさ……いえ、へーか。ですからね、あんた、いえあなたを置いてオレ一人だけ帰れるはずが……」

 おっさん呼ばわりしかけたオレを物凄い勢いで女達が睨んだので言い直す。けど妙に寛大な初代魔王様は不敵に笑っただけだ。

「護衛など必要ないと、はなから言っていただろうが」
「たしかに、さっきのあれを見てあなたに手を出す奴がいるとは思えませんけどねえ!」

 そうじゃなくて逆の意味で心配なんだよ。こんな公衆の面前でお手付きにするとか、しかも複数をとか、ありえないだろう! だいたい猊下はどうするんだよ、裏切るつもりか?
 言い足りなくて文句を続けようとしているオレに、眞王はうんざりしたように前髪を掻き上げると、懐から黒い包みを取り出して投げてきた。

「やかましいなお前は。これを返すから先に帰っていろ」

 ――っテメエ、んな手荒く扱うなよクソッタレ! つか、いつまた奪いやがったんだよ! このオレからスるなんてありえねえ!

 あまりのことに頭に血が上る。
 剣に手が行きかけた。
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