小説2

□愛のゆくえ 06.11.10
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「あのっ、誤解ですって!」

 スタスタと早足で歩く少年二人の後を必死で追っているのは服の乱れた男達。
「ほっぺたに口紅付いてるよ」
「いやこれはそのっ」
 慌てて腕で擦って消そうとするヨザックに村田は目も合わさない。その隣の有利も温度のない声を出した。
「あんたの首筋にもなんかある」
 コンラートもいつもの彼らしくなく、慌てて服の衿を合わせながら「ユーリ、ですからあれは囮捜査でして」と言い訳を始めようとしたが、冷たい黒い瞳が「なんの?」とすかさず切り返してきて口篭る。
「それはっ…極秘で」
「ふーんそうなんだー? なあ村田、おれ確か魔王様じゃなかった?」
「そうだね陛下。この国で僕たちに言えない事があるなんて知らなかったねえ。渋谷はともかくさ、この僕に、この僕に! この僕に聞かせちゃマズイなんて字案があるなんて随分とこの国も変わったもんだね」
「…猊」
「まさか! 双黒の大賢者様にそんな事するなんて魔王のおれでも無理だね。あ〜そういえばさあウェラー卿、無理しておれを呼び捨てにすんのやめていいからな」
「なっ、無理などっ!?」
「だっていっつもおれを陛下って言うじゃん。いいよ別にもう陛下でさ」
「ユー…」
「陛下だよウェラー卿、魔王陛下のお召しだ」
「しかし猊下…」
「あのそれは可哀相じゃ」
「なんだいグリエ、僕に逆らうのかい」
「グリエって…や、やだな〜猊下、いつもみたいにヨザックって呼んで下さいよ〜」
「なんで?」
「なんでって…だってオレたちは…」
 言葉を詰まらせながらも必死で顔を覗きこもうとするヨザックから、村田は汚い物でも見るかのように顔を逸らした。それから抑揚のない声でキッパリと辛辣な言葉を投げ付ける。
「僕はちょっと会えないからって浮気するような誠意の無い男なんかとは親しくしたくない」
「おれも」
「ユーリ!」
「猊下ですからあれはっ…そ、それよりこれを、そのままじゃ城に着く前に風邪引いてしまいますよ」
「そうですよユーリ、俺の服ですみませんが…」
 濡れたままの二人を気遣うコンラートとヨザックがこぞって自分達の上着を着せかけようとするが、
「いらない、あんたの服なんか触りたくない」
「そんな白粉くさいのなんか近付けないでくれ、汚らわしい」
と一刀両断にされてしまう。おまけに
「勝手におれの名前を呼び捨てにするな。それから酒臭いからもう近寄んな」
と有利に言われて、ヨザックばかりかコンラートまで青い顔で引き攣った。
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