小説2

□取り合い 連載中
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 両拳を握り締めて顔を輝かせた兄に弟は口を開けた。それから数秒遅れで盛大な溜息。
「…しょーりぃ」
「でもあの衣装には覚えがねーな…なんてキャラだ?」
 どう説明したもんかと頭を抱えかけていた親友が、今本当に頭を抑えているのは違う意味でだ。たしかに、たしかに眞王廟は女だらけだが、巫女と女兵士というのは自分も心引かれるものがたくさんあるのだが、だが顎に手を当てながら舐めるように女達を観察する勝利の真剣な目に、村田の口元がひくりと歪む。
「おっ、あの子すっげー可愛いぞ」
「……きみ翻訳機みたいなのとか持ってない?」
 やっほーとか言いながら手まで振っているご機嫌な姿まで見せられてしまい、とうとう眼鏡が光り始めた。なぜか迎えの一行の中に居た珍しい人物に訊ねたら、悪魔と呼ばれる女は待ってましたとばかりに頷いた。
「ありますとも。傑作ですよこれは。題して魔道装置、翻訳ところてーん!」
「わあ凄いパクリー」
 どこから出したのやら。小さな茶色の容器を嬉々として取り出した彼女に楽しそうに拍手をするのは村田だけだ。残りの者は一斉にゲゲッと下がり始める。容器の中身が動いているので尚更。魔道って…というツッコミも誰もせずに、ただもにたあが決まるまでは逃げることにだけ神経を注ぐのだ。

「け…村田、今の言葉はどこの…?」

 かわいそうな誰かさんの存在を知らない勝利だけが首を傾げている。聞いた事のない言語に不思議そうなそんな恋人を、しかし村田はにっこりと笑いながら悪魔に委ねた。
「ひとつ彼に頼むよフォンカーベルニコフ卿」
「この毒女にお任せあれ!」
「…えっ?」
 ヒイッと遠巻きな連中から小さな悲鳴が聞こえたが、勝利ただひとりだけは何をされるかわかっていない。というより、とんでもなく可愛らしい顔をした美女に至近距離に詰めてこられて赤くなってるというていたらく。
「あっあの…えっ…あああのうっ!?」
 だが幸せな思いをしたのはほんのわずか一瞬だけで、勝利は伸びてきた悪魔の指にガッチリと頭を捕獲されてしまい、こちらでは高貴とか呼ばれるはずの黒い目玉をひん剥いた。見た目からは想像できないほどの強い、時々テレビで見かける怪力マンが持っている林檎にされそうな力でむんずと抱え込まれて池から軽々と引きずり出されたら、そりゃあ驚くなというほうが無理だろう。そしてあろうことか、その美女は耳に小瓶から変な液体を流しこんできたのだ。

「おおおいっ!? あんたなにを…うひょえっ、なんかなんか動いてるぞコレーっ!!」
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