小説2

□黒い悪魔 06.12.16
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「ホントにィ〜?」

 黒い悪魔の迫り来る恐怖の詰問に、鳥肌を立てて青ざめた有利が救いを求めるように名付け親に視線を走らせた。受けたコンラートがすかさず「そういえば」と、いかにも今思い出しましたといった様子で村田が来た方と反対方向を指差す。
「ヨザックならさっきあっちで見ましたよ」
「あっち?あっちだね?サンキューウェラー卿!」
 口早に礼を言うと世にも恐ろしい笑顔で走り去っていく村田。
 有利が長い安堵の息を吐いた。
「サンキュー…ホントにサンキューなコンラッド。助かったよ」
 こっわかったな〜とまた息を吐く有利に、ええ本当に怖かったですねとコンラートも同じように頷いた。

「……しかし捨て身だな、ヨザ」

 溜息まじりの言葉に、え?と有利が瞬きながら見上げてくる。そんな可愛らしい主の表情に、彼はまるで誰も居ない所で小さいものを見た兄のような口元をしてから質問に答えた。
「ヨザックが昨日言ってたんですよ、猊下は運動不足だって。ほら最近はとくに書庫に籠もりっきりでしょう?」
「あ〜そういえば」
「だから少しは運動していただかないと、って」
「ええ!?じゃ、じゃあヨザックはわざと怒らせたのか?あのダイケンジャー様を?運動させるためだけに!?」
「多分、ね」
 ふっと遠い目をしてさっき見かけたとかいう場所の辺りを眺めている男に、有利も同じ場所に視線を向けてまた青褪めた。
「そんな…このおれですらそんな恐ろしい事はっ…」
 引き攣りながら両腕で自分の身体を抱きしめた有利が震えだす。
「あいつ理由知ったら益々怒るぞー」
「そうですね」
「し、死なないよなヨザック?」
「さあ」
「うわ、ヨザックの未来を想像したら益々寒くなっちゃったよ」
 襟元を引き締めてガタガタ震えている有利の身体をコンラートがまた口元を緩めてふわりと抱きしめた。そして本当に冷たくなっている耳たぶに囁いてくる。

「なら俺が暖めてあげます」

「……あんたねえ」
 「クサイ!クサイから!」と文句を言う腕の中の存在に少し傷付きながら、それでもコンラートは力を緩めない。
「まだ寒いですか?」
「……暑いデス」
 一瞬で暖かくなった耳に微笑みながら、それでももっと暖めてあげたくてコンラートは更に甘い言葉を直接耳の中へと吹き込んだ。
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