小説2

□TANGO NOIR 06.12.22
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「えっ村田が?」

 そうなのよ、猊下がしてくれたんですよ。しかも、しかぁもよ? なんとあちらからお化粧品まで買ってきて下さったんですよ、もうアタシ嬉しくって嬉しくって!

「うん、いつも厚化粧過ぎだったからね」
「あーたしかに厚かったよなー」

 やだちょっと酷いわ。今の傷ついたわよ凄く。もうっ、陛下もそんなにうんうん頷かなくたっていいじゃない!
「でも今日は凄くいいよ」
 え?
「だろ?」
 そ、そう?
「うん綺麗だ」
 やぁっぱりィ〜? 実はアタシもそう思ってたの。猊下ってばお化粧上手なんだもの、さすが前の生で女優やってただけあるわよね。ほらこの髪まで結い上げてもらっちゃったのよ。

「本当に綺麗だよヨザ、もしかしたら今までで一番かもしれないな。ねっ陛下もそう思いますよね?」

 まーあ、隊長までこんなに褒めてくれるなんて嘘みたい。いつもは口だけはそう言って笑っていても、なにかしら刺があったのに。

「ああ今夜のグリ江ちゃんはすっげー美人だよ」

 いやんどうしましょ! そんなに手放しで褒められたらアタシ顔が赤くなっちゃうじゃないの〜。
 モジモジと恥らっていたら、素直な陛下はアタシをまた褒めてくれた後で、「コラ陛下って呼ぶな」と隊長に突っ掛かってらっしゃった。隊長は隊長で、ちっとも悪いとなんか思ってないくせにヤニ下がった顔して謝っている。

「ユーリ!」

 クスクス笑っていた猊下の横から、もう酒の回ったらしい金髪坊やがまたいつもの台詞、「この浮気者ー!」とか言いながら掴み掛かったので、アタシはまあまあ落ちついてくださいと宥めたのよ。だって人の悪い隊長は笑ってるだけなんだもの。まったくコンラッドってば弟をからかうのがホント好きよねえ……ていうより、こんなにからかいがいのある弟がいてちょっと羨ましいけど。アタシにもこんな可愛い兄弟がいたら絶対毎日遊んじゃうだろうけれど、でもアタシのコトを褒めてくれた陛下はやっぱり助けないとね。
 そんなアタシを猊下も助けてくれた。にこやかに。

「ほらほら、そんな首締めゴッコなんかしてないで、二人で踊ってきたら?」

 するとわがままで、でも最近ちょっと素敵になってきた王子様は、婚約者との仲を見せ付けるいい機会だと思われたのか、意気揚揚と陛下の手首を掴んで、ずんずん歩き出しちゃった。

「そうだな。行くぞユーリ」
「えっ、ちょっと、ヴォルフラム、おれ踊りはっ」
「いいから来い」

 あらら……あれはどう贔屓目に見てもとても踊りに誘っているとは思えないわね……すみません陛下、お助けしようとしたはずなんだけど、余計な真似をしたみたいになって。
 困惑しながら引き摺られていく陛下に手を合わせながら謝っていたら隊長が馬鹿なことを言い出した。

「猊下たちも一曲どうですか?」

 はぁ? バっカねぇあんた、何を言い出すのよ。猊下がアタシと踊りなんか…

「うん行こっか」

 ええっ!?

「ほらグリ江ちゃんおいで」

 ちょ、ちょっと猊下、本当にいくの?
 中央に引っ張りだされて慌てるアタシが、あなた踊れるの? と尋ねると、「当たり前だろう」と素早く手を取られて腰を引き寄せられた。

 ……やだちょっと上手いわ。凄く手慣れているわよこのひと?
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