ブック13

□アイオライト
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「ねえ、次はスザクくんの話を聞かせてよ!」

「え?」


アーサーに噛まれた箇所をフーフーと息をかけていたスザクに、シャーリーが瞳を輝かせて詰め寄った。
スザクは僅かに後退りながら、首を傾げる。


「スザクくん、私の話を聞いてくれたでしょ?次はスザクくんの番!好きな子とかいないの?」


左手人差し指を立ててニッコリ笑うシャーリー。
本当に女の子というのはこの手の話が好きなんだな、とスザクは困った様に笑う。


「あはは…。残念だけど、そんな人はいないよ。僕は軍属だし、そんな余裕はないしね」


肩を竦めたスザクに、シャーリーは目を瞬かせた。


「…あ、ごめんね!私、無神経なこと聞いちゃったかな…?」

「ううん、そんなことないよ!
僕、あんまりこういう、年相応な話したことないから楽しいよ?」


しゅんとしてしまったシャーリーに、スザクは首を振る。
そんな彼に、シャーリーはそっと窺うように尋ねた。


「ほんと?」

「うん、もちろんだよ」

「なら、良かったあ!」


ホッとしたように笑顔になるシャーリー。
コロコロと変わる少女らしい表情を、スザクはにこやかに見ていた。


 
 
「ねえ、軍属っていっても、周りの人って男の人ばかりじゃないんでしょ?」


シャーリーの問いに、セシルの姿が浮かぶ。


「うん。僕は技術部所属だけど、一人お世話になってる人がいるよ」

「その人には何とも思わないの?」

「まさか!尊敬はしてるけど、そういう風には見れないよ!」

驚いた様に否定するスザク。
その様子から、確かにそういう対象の人ではないのだろう、とシャーリーは思った。


「じゃあ、学園は?うち、可愛い子いっぱいいるから、気になった子とかいないの?」

「え?うーん…気にしたことないなぁ」

「そうなんだあ」



眉間にシワを寄せて考えているスザクを見ながら、シャーリーは首を捻る。


「スザクくんて、あんまり恋愛に興味ないのかも。ルルと同じで」

「あ、そうかもね」


シャーリーの言葉に、スザクはニッコリ笑って頷いた。
そして、足元でくつろいでいるアーサーを抱き上げる。


「恋愛より、アーサーと仲良くなることの方が僕には大事かも」


そう笑った瞬間、アーサーは「シャーッ!」とスザクを威嚇し、彼の手から逃げ出してしまった。
「待ってアーサー!」とスザクは椅子から立ち上がる。


 
 
「あ、スザクくん。話、聞いてくれてありがとね!」

「ううん。ルルーシュ相手じゃ大変だろうけど頑張って!応援してるよ」

「あはは、ありがとー」



スザクは猫じゃらしを掴み、走っていくアーサーを追いかけた。
















アーサーを追いかけて廊下に出たスザクは窓の向こうに広がる青空を見た。



「好きな子、か…」


シャーリーの言葉に、ある光景が浮かぶ。


今日の様な真っ青な空。
そこから降ってきたかの様に、落ちてくる一人の少女。

とっさに受け止めた時に視界いっぱいを埋めた薄紅色の髪、間近に見た薄紫色の瞳をもつ、あの子。

共に過ごした時間は短くも忘れがたい。
穏やかで、楽しい時間は今もスザクの胸に強く残っている。



けれどもう二度とあの人のあの名を呼ぶことは出来ない。
3文字の愛称。



「………なにをバカなことを…」


そこまで考えて、スザクは自嘲した。


「俺に…、僕にはいらない」



そんな感情は枢木スザクには必要はない。





アイオライト



脳裏に浮かぶ笑顔を心の奥底に押し込んで、
二度と開かないように固く鍵を掛けた。
 
 









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