ブック13

□その声であの名前を
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声が聞こえる。

それは、きっととても大切に思ってた人の声。


―ルル!



思えば、その名で呼んでくれていたのは彼女だけだった。











「あのっ、待ってください!」


立ち去ろうとしたルルーシュを、シャーリーは思わず引き留めた。

ルルーシュは、ゆっくりと振り向いてシャーリーを見る。


「…あの、えーっと!」


シャーリーはバックのチャックを開くと、中からハンカチを取り出した。


「これ!使ってください」

「え…」


ズイッと差し出されたハンカチに、ルルーシュは困惑する。


「なぜ?」

「だって、泣きそうだから…」


シャーリーの言葉に、ルルーシュは息を呑む。


「何故か分からないけど、貴方の悲しそうな顔は嫌なんです。だから、涙が出たらこれで拭いてください」


そう言うと、シャーリーはたまらず苦笑した。


「…あ、ありがとう…」


ルルーシュは震える手でそのハンカチを受け取る。


「あ!私シャーリー・フェネットっていいます。貴方は?」


シャーリーはにっこり微笑むと首を傾げる。
ルルーシュはハンカチを握り締めた。


「…ルルーシュ・ランペルージ…」


声が上擦りそうになるのを必死で堪えて、ルルーシュは答える。
シャーリーは彼の名前を聞いて、また微
笑んだ。


「…お互い、大切な人を亡くして辛いですけど、頑張って生きていきましょうね。ルルーシュさん」


涙が出そうだった。

その笑顔も優しさも、シャーリーなのに。
もう彼女は決してルルーシュをあの名前で呼ばないのだ。


けれどそれを自分が望み、シャーリーの記憶を消した。

それが彼女の幸せになると信じて。


でも辛い。

彼女がたった一言、自分の名前を呼んでくれないことが、こんなにも寂しい。


「それじゃ、さようなら。ルルーシュさん」


そう言うと、シャーリーはルルーシュとは別の方向へと歩き出した。













…声が聞こえる。

それは、もう二度と聞くことの出来ない大切な人の声。







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