ブック13
□イコール
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彼女にとってのわたし。
わたしにとっての彼女。
【イコール】
静かな空間だった。
彼女が言葉を発するまでは。
「ジノって、好きな女の子はいるの?」
「……………え?」
ポキ、とシャーペンの芯が折れた。
ジノとユーフェミア以外、誰もいない図書室。
ペンを滑らせる、軽快な音がピタリと止む。
唐突過ぎる質問に、ジノは呆然となる。
「クラスメイトの子が言ってたの。ジノってすごく人気があるのに、どうして彼女を作らないのかなって」
にこにこと笑いながらユーフェミアは言う。
ジノはう〜んっと唸り、
そしてからかうような笑みを作った。
「だったらユーフェミアだってそうだろ。意外と人気があるのに、彼氏を作らないじゃないか。好きな男でもいるのかい?」
「私は…。無理よ、彼氏なんて。いつかはお父様が定めた方のもとに嫁がなくてはならないから…」
ジノの言葉に一瞬頬を赤く染めたユーフェミアだったが、すぐに沈んだ面持ちになる。
恋人が欲しくないと言ったら嘘になる。だけど、「ブリタニアの皇女」という肩書きがそれを決して許しはしない。
そして、それは恐らくジノも同じで。
彼もブリタニアの有力な貴族の嫡男なのだ。ジノもユーフェミアも、選べる自由は限られている。
ユーフェミアは沈みそうになる気分を引き上げるように、努めて明るい声を発した。
「それに、私にはジノがいるもの!」
「え?」
「ジノといると楽しいし、安心するから。だから、それだけで十分よ」
ユーフェミアはふんわりと花が咲く様な、無垢な笑顔を浮かべる。
その笑顔に、頬が熱を持つのを感じたジノはそれを隠すために少し俯いた。
「わたしも…」
ポツリと呟く。
顔をあげて、しっかり彼女に伝わるように。
いつもの笑顔ではない、微笑みで。
「わたしもユーフェミアがいるから、彼女なんかいらない」
その言葉を受けたユーフェミアは、ジノ以上に頬が赤くなった。
彼女にとってのわたし、
わたしにとっての彼女は
たぶんイコールで結ばれてはいない。
「ジノ、この問は解けた?」
「ん?どこだ?」
けど、このままで良い。
イコールで結ばれていなくても、彼女とわたしは一番傍にいるから。
もう少し このままで。
。
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