ブック13

□悪戯好きな騎士
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目の前で穏やかな寝息を立てるのは、ナイトオブラウンズである自分が仕える主の令嬢―ユーフェミア・リ・ブリタニア。
第3皇女の彼女は、行政特区日本を設立する際に皇位継承権を放棄したために、多忙な身ではあるが、今は一般人としてののびやかな日々を過ごしている。

けれど自分にとって、この少女の肩書きがどう変わっていこうと“ユーフェミア”というたった一人の女の子という見方は変わらない。
小さい頃から知っている幼馴染みで、大好きな守ってやりたい存在だ。



(あーあ、ぐっすり眠っちゃって…)


よっぽど疲れているんだろう。

親友に呼び出しを受けたスザクの帰りを二人で待っているうちに、彼女はすっかり寝入ってしまった。


寝坊助なのは昔と変わらないな、と思う。
自分と同じ、16の女の子。
あどけなさが残る寝顔に、一緒に昼寝をしていた頃を思い出す。

白くて透明感のある肌、薄く色付いた頬、長く伸びたまつ毛。


自分でも無意識のうちに、
顔を近づけていた。








「ジノ」



唇が触れる直前。
なんの感情も含まない声色で呼ばれた。


(…しまった…)


我に返るものの、時すでに遅し。

振り向けば、絶対零度の冷たい眼差しでスザクはわたしを見ている。


「どういうつもりだい?」


わたしは慌ててユーフェミアから離れて手を振った。


「あ、あはは!冗談だってジョーダン!お前を驚かせようと思ってさぁ〜!」

「……」



ピリッと張り詰めた空気が変わらない。
わたしはなんとかこの場を逃げようと、いつものようにスザクの肩に腕を回した。


「わたしとユーフェミアはただの幼馴染みなんだよ、おさなな・じ・みっ。
悪かったなぁ、ちょっとイタズラが度を過ぎ…た…よ」


そこまで言って、わたしは口を閉ざした。
隣でスザクが相変わらずの冷たい目で怪訝そうな顔をする。





(違う)



いや、違わない。
わたしとユーフェミアは幼馴染みだ。それは紛れもない事実。

でも、違うんだ。
わたしはユーフェミアをただの幼馴染みとは思っていない。
大好きで、守りたくて、騎士になった。
今キスをしようとしたのは、イタズラなどではない。
自分で仕舞い込んだ感情が、漏れたんだ。

どうしようもない愛しさが、わたしにはある。



(…―逃げるな)






もう、逃げたくない。
彼女への気持ちに。













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