ブック13
□惚れた弱み
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もやもや。
もやもや。
自分の心を支配する嫌な感覚をユーフェミアはもてあましていた。
お気に入りの庭園で横になる。そんな所を彼女の姉や侍女達に見られたら「はしたない」と怒られてしまうだろうが、そんなことを気にする彼女ではない。
見上げる空は蒼く、蒼く、広い。こういう空を見ていると悲しいことも嫌なことも忘れて、気持ちが軽くなる。
だけど今はどうだろう。
空をいくら見ても気持ちは軽くならない。むしろ、どんどん落ち込んでいく。
もう部屋に戻ろうか、そう思い始めた時。
「ユーフェミア!」
視界いっぱいに空と同じくらいの蒼い瞳が映った。
次に移るのは不機嫌そうな眉。
「ジノ…」
「どうして来なかった?」
前屈みになって、ジノはユーフェミアの顔の横に手をついている。
互いの顔が逆さまに映ったまま、ジノはユーフェミアを睨んだ。
「それは…」
突然ジノが現れたことにポカーンとしていたユーフェミアは、彼の問いに答えようと記憶をたどる。
今日は久しぶりにジノとデートに行く予定だった。
ジノは貴族であるが皇帝直属の騎士。多忙な彼とはすれ違いの多いが久々に会える、貴重な時間だったのだ。
この日のために新しい服を新調した。
ジノはユーフェミアには白がよく似合うと言うから、真っ白のシンプルなワンピース。
彼に喜んでもらえるだろうか、と、何度も鏡の前で自分に合わせた。
けれど。
(きゃ〜っ!ジノ様〜!)
(お久しぶりじゃないですかぁ!会いたかった!)
(やあ、久しぶり。皆、また綺麗になったな)
(も…っ、もう!ジノ様ったら!)
(冗談はお止めになってくださいな?)
(冗談なんかじゃないさ!皆、美しいレディだ!)
待ち合わせ場所には、可愛い女の子達に囲まれた楽しそうな彼。
…女好き、というわけではないのだろうけど、貴族としての紳士的な振る舞い故のあの態度。
(慣れているはずだったんだけどな…)
なかなか答えようとしないユーフェミアの態度に、ジノはますます目を細める。
「今日は久しぶりのデートだっただろ。楽しみにしてたんだ、私は。なのにすっぽかして…。酷くないか?」
「………酷いのはジノだわ」
漸く口を開いたユーフェミアは、ジノをにらむ。
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