ブック13

□篭から放された鳥
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ナナリーはよく笑う子だった。

薄紫色の瞳はいつも真ん丸で、細い両足を目一杯広げて離宮内・庭園を駆け回る元気な妹で。

時には母の帽子をかぶりながら走り回り、異母姉妹の持ち物が欲しいとワガママを言う。
まだ寝たくないとゴネたのに、気付いたら勝手に寝ていたこともある。

幼少のルルーシュはそんなナナリーに振り回されながらも、彼女に対する慈しみの心は日々大きく育っていっていた。


ルルーシュにはたくさんの妹がいる。そのほとんどは顔も会わせたこともなく、名前すら知らない。
ナナリーが生まれるまでは、ルルーシュにとってユーフェミアが唯一身近にいた“妹”という存在だった。




「…お母様」

遠慮がちに母を見上げたルルーシュに、マリアンヌは目を細めて笑う。


「ルルーシュ。この子がナナリーよ。あなただけの妹」


(…ぼくだけの?)


とても嬉しかった、とルルーシュは記憶している。
ユーフェミアは確かにルルーシュの妹だけど、でもルルーシュの本当の妹ではなかった。彼女とは半分しか血が繋がっていない。
ユーフェミアにはルルーシュ以外に本当の姉がいる。

だけど、この少女は。
ナナリーはルルーシュだけの本当の妹だ。


「ナナリーにご挨拶は?」

「あ…、はいっ!
初めまして、ナナリー!ぼくはルルーシュ、君の…兄様です…」


なんとなく、恥ずかしくて俯いた。挨拶なんて慣れているはずなのに。
すると、母の腕の中からぐずるような声がした。
そして部屋に響きわたるような鳴き声がルルーシュの耳に刺さる。

ナナリーが泣いていた。


「…え…っ!?」


ルルーシュは愕然とした。
ああ、嫌われてしまったのだろうか?情けない挨拶だったから、呆れられてしまったのだろうか。


「お…母様…」

「もう、ルルーシュったら。そんな顔しないの!
ナナリーはね、嬉しくて泣いてるのよ。お兄様に会えて嬉しいって」

「ほ、ほんとうに!?」

「本当よ。ほら、ナナリーと手を繋いであげて?」


母の言う通り、恐る恐る泣いてるナナリーの手に触れた。
すると、ナナリーは泣きながらもルルーシュの手をぎゅっと握り返す。
力強く、ぎゅっと。


「ね?
お兄様が大好きですって!」


マリアンヌはにこっと笑った。
ルルーシュは嬉しくて泣きそうになる。



「お母様、ぼくはナナリーを守りたい!ずっと!」
 




この手の柔らかさ、力強さが愛しい。大切な大切なたったひとりの自分だけの妹。

ナナリーを、僕が守る。





(大好き!お兄様!)














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