ブック13

□この哀しみに終わりはないから
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世界が再生されてから数年経ち、人々はまるで“あの日”などなかったかの様に笑い合い、穏やかに日々を過ごしていた。


かつてエリア11と呼ばれた島国は本来の名を、イレブンと呼ばれた人間は本来の呼び名を取り戻している。




彼らが《救世主》と呼び、賞賛してやまない一人の仮面の男は東京の政庁、美しい花に彩られた庭園によく足を運んでいた。


彼はブリタニア第99代皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを討ち果たし、新たなるブリタニアの代表となったナナリーの支えとなり、表舞台には立たないものの、その存在は全世界から求められている。
 

ナナリーは美しい庭園のなか、漆黒の男の背中を見つめた。



薄紫色の瞳はナナリーの兄と姉の中間をとったような鮮やかな色をしていた。
長く光を閉ざしていた瞳に最初に写したのは、兄の顔。
人殺しの顔なのですね、と告げた。

そして、仮面の男に討たれた兄、その死にゆく姿。
愛していた、ただ、二人でいれたら、それだけで良かったと、ずっと縋った。



数年が経った今でも、思いは消えることなくナナリーを内側から傷付けていく。
悲しい、辛い、寂しい…そして、許せないという思い。


 
ナナリーに見つめられているのに気付いてるのかいないのか、仮面の男はずっと遠く彼方を見ている。

彼は、ナナリーの考えが正しければ、彼はあの人。
兄と一緒にナナリーをずっと守ってくれていた強く心優しい幼馴染みのはず。


「…ゼロ!」


ナナリーは彼を呼ぶ。
仮面の男、ゼロはゆっくりとナナリーに振り返った。


「貴方はいつも…ここに来るのですね」


花が咲く庭園に。昔いたアリエスの離宮とよく似たこの場所。
姉が大好きだったらしいこの地に。


 
ゼロの表情は見えない。読み取れない。
目の見えないあの頃なら、何か感じ取れたのだろうか。


動けないナナリーの代わりにゼロから彼女に歩み寄る。
長身の男は方膝を折り、ナナリーの目の高さに仮面を合わせた。


「ナナリー様、いかがされましたか?」


「…わたくしはずっと、優しい世界になりますようにと願っていました…」


「…はい」


「ゼロ、あなたにこの世界はどう映りますか?」


「…未だ紛争は無くなりません。ですが、皆が笑い合い手を取り合える、それは優しい世界ではありませんか?」



ナナリーは首を振った。














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