ブック14

□約束の記憶
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いくつもの約束を交した。


今思えば他愛もない、じつに可愛らしい約束を。


けれど、あの頃の俺達はとても真摯で
交した約束の全てを守ると、守れるものだと信じていた。








『…わたしたちは、大きくなったら別々の人と結婚するんですって』


瞳に涙をいっぱいに浮かべて、彼女はうつ向く。


『約束、したのに…』


『…仕方ないよ。ぼく達は、兄妹なんだから』


俺は彼女の横で顔を上げた。

俺までうつ向くのは淋しいし、涙が流れてしまいそうだったから。

俺達は、晴れ渡った空の下で強く手を握り合った。
決してお互いから離れてしまわないように、存在を確認するように。


『…ユフィ。結婚だけが、ずっと一緒にいられる方法ってわけじゃないよ』

『?』

『約束だ。
ずっと一緒にいるって、約束しそう。』

『また、約束…』


ユフィは少しだけ口を尖らせる。

彼女はすでに、分かっていたのかもしれない。

どんなに頑張っても
守れない約束があるということを。


『今度こそ、絶対に守るから』

俺は強く言い切った。
本当に守れると、信じていたから。


『……絶対、ですよ?』

『ああ。』


ユフィは涙を拭き、微笑んだ。









あれから10年。

ユフィの隣に俺はいない。


彼女と共に過ごしたあの日々に交した約束は、まだ一つも果たされてなかった。






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