ブック13

□過ぎていった景色
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ユフィ!ユフィ!ユフィ!



あの時に聞いた、悲痛な叫びは今もまだ耳に残っている。



その声の主はまだ17才の子供で、その悲劇はあまりにも彼に過酷過ぎた。



(離せ!離してくれ!ユフィがっ!)


色褪せた情景。
けれど、鮮明に思い出せる。


室内に鳴り響く停まった心電図の音。
独特な消毒液の香り。
鼻にツンとつく、血の臭い。

必死に手を伸ばし、前へ進もうとする彼の力。


(やめろ!枢木スザク!)

(離せ!ユフィが、ユフィがっ!!離せよ!)



わたしは、彼の墓にやって来た。
彼が死んでから2年が経った頃だった。


(嫌だ!嫌だよユフィ!僕を置いて逝かないで!)

(枢木!)

(ユフィ!ユフィ!ユフィ!)

(ユーフェミア様は死んだんだ!もう止せ!)



三人がかりで押さえつけても尚、彼の手は、身体、心はあの少女へと向かって進む。
泣き叫ぶ彼の姿は、痛々しく、わたしはたまらず叫んだ。


(もう、お亡くなりになられたんだ、殿下は…!)

(………)


溢れ出る涙をそのままに、彼はわたしを睨む。
目が合っただけで、息苦しさを感じながら、わたしは続けた。


(もう君の声は届かないんだよ…!)


瞬間、彼はその場にしゃがみこみ、嗚咽した。








「君は、ユーフェミア様のところに逝けたのだろうか」



墓に向かってポツリと呟く。
イレブンなんて、ましてや名誉ブリタニア人なんて、気にも止めたことなんかなかったのに。

ただ、あの二人の並んだ姿が、微笑み合う様子が、とても心に残ってしまって。
しかしその二人は共にもうこの世にはいない。




「……君はもう、いないのに…」





こびりついて離れない。
あの涙も叫びも笑顔も。



悪徳皇帝が死んで、世界は目まぐるしく変わっていく。
人々が、明日を見つめる。

そんななか、未だにわたしは過去を忘れられない。


あの二人がいたことを、
あの二人がいないことを、

きっといつまでも覚えてる。





(…ユフィがいなくちゃ、僕はもう…)













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