ブック13

□彼女の生まれた日
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冷たい風が吹く。


(約束よ、スザク)


自分を捨てた今でも、
瞼の裏に焼き付いた笑顔。

なにもかも、彼を意味する全てを捨てたはずなのに、
結局その笑顔だけはここに留めてしまう。



「ゼロ」


鈴の音がした。
音の主は彼の最愛の妹であり、彼女が大好きな妹。


「ご存知ですか?ゼロ。
今日はユフィ姉様の誕生日なんですよ」


彼女はその名を大事そうに呼ぶ。
僕が呼びたくても、呼ぶことが出来ない大切な名前を。


「…そうですか。知りませんでした。」

「…ゼロ。…いいえ、スザクさん。今日だけは、貴方に戻っても良いんですよ。
きっとお兄様は許してくれます」


“今日だけは”
かつての自分を優しく包んでくれた彼女の生まれた日だけは。

彼女を想わない日なんてない。
忘れたことなんかなかった。



(朝起きたら、お姉様がノックもなしに部屋に入ってるくるの。大きなテディベアを抱えて「誕生日おめでとう」って、キスしてくれて。
ルルーシュとナナリーは、二人で一つのプレゼントをくれると思うわ。ナナリーはきっと「ユフィ姉様大好き!」ってキスしてくれて、

ルルーシュは照れ屋さんだから、きっとキスはしてくれないの。
幼馴染みはかっこつけて、たぶんわたしの歳の分だけのバラをくれるんじゃないかしら。
彼は女の子の扱いになれてるから、手の甲にキスをするんだわ。)



幸せそうに笑う彼女。
その隣で、彼女の口から紡がれるルルーシュと幼馴染みに嫉妬していたことを彼女は知らない。


(それで…笑わないでくださいね?
あのね、誕生日は好きな人と遊園地に行きたいの。二人でいろんな乗り物に乗って、最後に観覧車に乗るのよ。
それで、頂上になったら、キスをするの。
観覧車の頂上でキスをすると、その恋人はずっと幸せでいれるんですって。
キスのあとはね「大好きだよ」って言われたいな。
それから家に帰ると、ルルーシュ達がクラッカーを鳴らすの。
わたしはびっくりするんだけど、でも嬉しくてきっと泣いちゃうわ)


彼女となにもかもがくすぐったかった。
泣きそうになりながら、自分は言ったんだ。


(キスの相手役は僕?)

(…………そういうことを聞くのは、ずるいと思います)

(ごめん。)

(約束よ、スザク。
わたしは貴方じゃなきゃ嫌)

(光栄です、マイレディ)







冷たい風が吹く。
秋の訪れを知らせる風が。





大好きです
私の愛するユフィ
君が生まれてきてくれて
俺と出逢ってくれたことが

僕にとって、とても幸せなことだった









(ありがとう。大好き)






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