ブック13

□そして君と
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不特定多数を守る為に手に入れた力、
いつのまにか唯一人の少女を護る為に。



[そして君と]





何と例えたら良いのか、不思議な気分だ。
嬉しいけれど、とても照れ臭くて、緊張する。
けれど、すごく安心していて、ウトウトしてしまう。
でも眠りたくない、と足掻いて。


「スザク?」


くせっ毛をすくように撫でる手が止まった。
彼女の柔らかな手はとても気持ちが良くて、頭から離れていくのが寂しい。


「そろそろ学校の時間ですよ。起きてくださーい」


「…ぅん…」



ああ、優しい声が呼んでる。だけど、起きれない。
もう少しだけこの不思議な気分を味わっていたい。


「遅刻しちゃいますよ?」


彼女は僕を起こすために僕の頬をつついてみたり、肩を軽く叩いてみたりする。
“遅刻”という言葉で起きなきゃと思うけど、心が嫌がる。



だって、こんな機会は滅多にないんだ。
朝の早い時間。本当に短い逢瀬。


「もう、スザク…」


心底困ったようなため息が上からして、僕は渋々目を開ける。
自分の我が儘で、彼女を嫌な気持ちにはさせたくない。


「……ごめん。もう行くよ」


彼女の太股から頭を上げて、微笑む。
制服についた葉を払いながら立ち上がると、彼女もそれに従って立ち上がった。

だが


「あっ…」


ガクンっと膝が折れて、彼女が座り込みそうになる。
僕は慌てて彼女の腰に腕を回して、細い肢体を支えた。


「ユフィ、大丈夫?!」

「あは、足が痺れちゃったみたいです」

「ごめん。僕がなかなか起きないからだね」


そう言って目を伏せると、ユフィはきょとんと目を瞬かせ、そして笑う。



「わたしが好きで膝枕したんです。それに、足が痺れるくらいスザクと一緒にいれたんだもの」


だから平気よ、嬉しいの。


眩しいくらいの太陽の陽を受けて、目眩がしそうなほどの輝く笑顔をくれるユフィ。
愛しい彼女への想いが溢れる。


ぎゅっと、細い肢体を抱き締めた。


「…スザクからお日様の匂いがします。制服が黒いから、太陽の陽をたっぷり吸収したのね。
…あったかい」



(あったかいのは君だ)



このまま彼女を抱き締めていれば、一時間目は確実に遅刻をするだろう。

ユフィもそれを気にしてたいるのか、僕の腕をほどこうと身体をよじる。
…僕の支えがなければ、すぐに座り込んでしまうくせに。

だから


「あの…遅刻しますよ?」

「そうだね。
でももう少しだけこのまま」


このまま抱き締め続けることを許してほしい。
ユフィが許してくれるのなら、僕にとってこれほど幸せなことはない。



「…………はい」



諦めたように、彼女は呟いた。
ほんのりと頬を染めて、すぐに僕の胸で顔を隠す。
けれど、華奢な腕は僕の背中にきちんと添えられていて。


僕はたまらず笑顔になった。












不特定多数を守る為に手に入れた力は、唯一人の少女を護る為に。
溢れ出してしまうくらいの命を抱き締める為の手は、唯一人の少女を抱き締める為に。




そして君と共に生きる。












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