ブック13

□夢ならばここで終わらせて
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伝えたいことがたくさんある。



少しずつ濁っていく視界、苦しくなってゆく呼吸。
待って、もう少しだけ、時間がほしい。彼に、目の前で泣いているこの人に、伝えたい。伝えなきゃいけない。

「…スザク…っ」


貴方と出会ってわたしの世界は広がった。
わたしの知らなかった世界、
わたしが知らなくてはいけない世界を見せてくれた。
貴方がいたから、わたしは歩いていられたの。

歩み続ける姿が励みに、
真摯に輝く瞳が希望に、
どんな時も真っ直ぐな背中が勇気に、
貴方の笑顔が夢に。


いつの間にか、この心は貴方に占められていた。

今も痛いほど強く握られた手のぬくめり。その痛みもいとおしいと思える。


「あなたに、あえ、て……―」




本当に、良かった。
―――――ありがとう―…






「………―っ!!」


悲鳴が声にならない。
叫びたいのに、声が出なかった。
喉が詰まる、息が出来ない。涙の止め方がわからない、頭が割れる、痛い。
痛い痛いいたいいたいイタイ。
待って、と、行くな、と、嫌だ、と、言葉は浮かんで消えていく、音に出来ないまま。


なにも言えなかった。

嘘をいうばかりで、本当に言いたかったことが何一つ。


「……っゆ…ふ、ぃ…」


愛称で呼ぶことを彼女はとても喜んでいた。
花が咲いたようにくすぐったそうにして、微笑んでくれる。


「…ゆふぃ、ユフィっ…!ユフィ、ユフィ、ユフィぃ!」


ねえ、こんなに呼んでるよ、君を。早く応えて、僕に笑ってくれよ。
冷たい手を離して、身体を抱き上げる。
冷たい身体だ。でも、大丈夫、僕が暖めてあげるから、だから、早く。


「……すき…なんだ……」


やっと、言えたのに。
ずっと自分の気持ちが分からなくて、やっと気づけたのに、どうして君は聞いてくれないんだ。


「好きなんだ、ユフィが、大好きなんだよっ」




ああ、伝えたいことがたくさんあるのに。















もう、アナタに伝わらない。












夢ならばここで終わらせて
(こんな残酷なものはいらないんだ!)










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