ブック13
□薄紅に染めた頬で精一杯笑顔を
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向かい合って確かめあって誓いあって、互いに踏み込むことを許したはずなのに、
はじめて出逢った時よりも
最初に手を取り合った時よりも
遠く感じるのは、どうして?
静かな執務室にサラサラとペンが滑る音だけ響く。
上質な紙の一番下に自身の名前を書いて、部屋の主―ユーフェミアは息をついた。
机の端に置かれた書類の山をみる。
これでやっと半分終わっただろうか?いや、でも書類にサインをする以外にもやらなければならない事はたくさんあって…。
不意に背後の窓を見ると、陽は高く高く上がっており、ユーフェミアを眩しく照らしている。
「…スザク」
ほとんど無意識に呟いた名前。執務室に溶けて消えていく音は誰に聞かれるわけでもないが、ユーフェミアははっと口元を指で抑えた。
逢いたい、と、いつも想ってる。傍にいたいとか、話をしたいとか。
でもそんな気持ちとは裏腹に
逢いたくない、何を話せばいいのか分からない、という思いもグルグル頭を回る。
自分らしくないと思う。
少し前まで、会いたくて話したくて、そこに何も迷いなんかなかった。
一緒にいたくて仕方ない。
でも一緒にいると胸が騒いで落ち着かない。
分からなくて、少し不安になる。
―コンコン
物思いにふけっていたユーフェミアの鼓膜に乾いた音が響いた。次いで、まさしく今想っていた人物の声がユーフェミアを呼ぶ。
「ユーフェミア様?入ってもよろしいですか?」
とたんに高鳴る鼓動に、胸を押さえる。
慌ててユーフェミアは鏡の前に立って髪や服の乱れがないかを見た。
顔がひきつってしまわないよう、両手で頬を叩く。
「は、はい!どうぞっ」
そうしてやっと応えると、「失礼します」という声のあと、すぐ扉が開かれた。
薄紅に染まる頬で精一杯笑顔を
(こんにちは!スザク!)
(………っ)
。
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