ブック13
□空に溶けて
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(愛しています…っ、お兄様…!)
大好きな妹が泣いている。
大好きな、名もなきかつての騎士も泣いている。
真っ赤な血にまみれた彼は、ゆっくりと瞳を閉じ、こと絶えた。
思わず両手で顔を覆う。
もはや実体のない、意識だけ存在してるわたしが、実際に顔を覆うなんて出来てないのだろうけど(そもそもこの意識だって本当に在るのか疑わしいのに)。
どうしてこんなことになってしまったの?
どうしてこうするしかなかったのだろう?
もっと、他の方法もあったのではないの?もっと優しく、穏やかに世界を変えていけたのではないの?
笑顔が見たかったのに。
大好きな人たちの笑顔をずっと、ずっと願って見ていたのに。
世界はどうしてこんなにも彼らに残酷なの?
「ユフィ」
彼の穏やかな声がした。
「見てごらん。花火があがってる」
ええ、見えるわ。
学園からいくつもの綺麗な花火があがってる。
それを学園の人たちが眩しそうに見ている。
「ナナリーとスザクは、手を取り合いながら生きていく」
「……ルルーシュ。わたしは貴方にも」
「俺も考えたんだ。君と同じように、俺にとって大事なモノはなんだろうって」
彼の顔が見えない。
わたしがまだ顔を覆っているから?
それとも彼もまた実体のない存在だから?
「それらを守るために出来ることはなんだろうって」
「それがゼロレクイエムなの?」
「ああ。こうなったこと、後悔はしていないよ。
俺は、本当に大事なモノは何一つ捨てていないから」
貴方の命は?
見てみて、花火を見上げる彼らの姿を。貴方を想う彼らの心を。
「ルルーシュもバカです。
…大バカです!」
「ああ、そうだね、ユフィ」
あ。
笑った彼の顔が見えた気がした。
良かった。
貴方が笑ってくれて。
…もう一度、会えて、本当に良かった。
「…お疲れ様でしたね、ルルーシュ」
「君も。…ずっと見守ってくれてありがとう」
「それしか出来ないから」
「それだけでも俺には十分だったよ」
(…あ)
(どうされましたか、ナナリー様)
(…今、お兄様とユフィ姉様が…、いえ、なんでもありません)
(…《…ナナリー、僕にも見えたよ。二人の魂が…》。)
空に溶けて
(さようなら と ありがとう)
。
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