ブック13

□空に溶けて
1ページ/1ページ




(愛しています…っ、お兄様…!)





大好きな妹が泣いている。
大好きな、名もなきかつての騎士も泣いている。

真っ赤な血にまみれた彼は、ゆっくりと瞳を閉じ、こと絶えた。



思わず両手で顔を覆う。
もはや実体のない、意識だけ存在してるわたしが、実際に顔を覆うなんて出来てないのだろうけど(そもそもこの意識だって本当に在るのか疑わしいのに)。


どうしてこんなことになってしまったの?

どうしてこうするしかなかったのだろう?



 
もっと、他の方法もあったのではないの?もっと優しく、穏やかに世界を変えていけたのではないの?


笑顔が見たかったのに。
大好きな人たちの笑顔をずっと、ずっと願って見ていたのに。

世界はどうしてこんなにも彼らに残酷なの?




「ユフィ」

彼の穏やかな声がした。


「見てごらん。花火があがってる」


ええ、見えるわ。
学園からいくつもの綺麗な花火があがってる。
それを学園の人たちが眩しそうに見ている。


「ナナリーとスザクは、手を取り合いながら生きていく」

「……ルルーシュ。わたしは貴方にも」

「俺も考えたんだ。君と同じように、俺にとって大事なモノはなんだろうって」


彼の顔が見えない。
わたしがまだ顔を覆っているから?
それとも彼もまた実体のない存在だから?


「それらを守るために出来ることはなんだろうって」


「それがゼロレクイエムなの?」


「ああ。こうなったこと、後悔はしていないよ。
俺は、本当に大事なモノは何一つ捨てていないから」


貴方の命は?
見てみて、花火を見上げる彼らの姿を。貴方を想う彼らの心を。


「ルルーシュもバカです。
…大バカです!」

 
「ああ、そうだね、ユフィ」




あ。
笑った彼の顔が見えた気がした。




良かった。
貴方が笑ってくれて。
…もう一度、会えて、本当に良かった。





「…お疲れ様でしたね、ルルーシュ」


「君も。…ずっと見守ってくれてありがとう」


「それしか出来ないから」


「それだけでも俺には十分だったよ」











(…あ)

(どうされましたか、ナナリー様)

(…今、お兄様とユフィ姉様が…、いえ、なんでもありません)

(…《…ナナリー、僕にも見えたよ。二人の魂が…》。)








空に溶けて
(さようなら と ありがとう)











戻る

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ