ブック13

□それどころじゃない
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(……ユフィ…?)


視界の端で捉えた濃い薄紅色は、見間違えるはずがない、唯一の少女。






正面に頬をうっすら赤く染め俯く女の子が一人いた。
容姿の整った可愛らしい女の子だとスザクは思う。
先ほどまでこの女の子の気持ちに真摯に向かい合っていたのだが、
たった今廊下の角へ消えていった濃い薄紅色を見て、完全にスザクの全てが一人の少女に傾いてしまった。



「…あの、スザクくん?」


 
黙りこくってしまったのスザクの腕に、女の子はそっと触れる。
はっと我に返ったスザクは、自分を見つめる、潤んで熱の籠った女の子の目とかち合う。


「…スザクくん、」

「ごめん!」


何か言おうとしたのを遮ってスザクは頭を下げた。

目の前の女の子には申し訳ないが、先ほどから脳裏に焼き付いて離れない濃い薄紅色の髪。
薄い青紫の瞳を見開いて走り去ってしまった、大事な大事な少女。


ずっと腕に触れられていた女の子の華奢な手を外して再びスザクは告げる。


「本当にごめんね!」


「スザクくん!」


 
女の子の声を背中で受けながらもスザクは振り返らず、少女が消えていった廊下を全力で走った。



(ごめん!でも)




それどころじゃないから

好きなのはあの人だけなんだ。










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