ブック13

□世界で一番優しい話
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やわらかな風が、咲き誇る花の優しい香りを運ぶ庭園で
固く、でも優しく繋ぎ合った手をそのままに
ふと少女は真摯な顔になって、己の騎士に問いかけた。


「わたしが死んだら、スザクはどう思いますか?」

「はい?」


唐突な言葉に、深緑の瞳が瞬いた。


「ユーフェミア様。いきなり何を…?」

「ですから、わたしが死んだら、スザクはどう」

「いや、ですから何故いきなりその様なことを?」


つい今さっきまで、二人で互いに未来を共に歩んで行こうと誓ったばかりのはず。
溢れんばかりの幸せの中にいたはずなのに。


「わたしは皇族です。お飾りの副総督だからといって、命を狙われていないわけではないでしょう?」


さあ、答えを聴かせてください。
ユーフェミアの青紫色の瞳が、真剣さを増す。
困惑するスザクだが、ひとつ息を吐いて、ユーフェミアの手を包む力を強めた。


「その様なこと考えられません。自分は貴女の騎士。貴女の命をお守りするのが使命です。
決して、貴方を危険には…」

「スザク。例えばの話なんです。わたしは、スザクのことを誰よりも信じてます。貴方の力を疑ってなんかいません」


 
ユーフェミアは困った様に微笑み、スザクに握られていない、もう一つの手で彼の手に触れる。

スザクは傷付いた様な瞳でユーフェミアを見た。


「…やはり考えられません。例えばの話でも、…ユーフェミア様を失うことなんて…」

「嫌ですか?」

「はい」

「悲しいですか?」

「はい」

「苦しいですか?」

「はい」

「わたしもです」

「はい、…はい?」


きょとん、とスザクは目を見開いた。


「わたしだって、スザクを失うなんて嫌だし悲しいし苦しいです。
そんなこと、考えたくもない」

「ユーフェミア様…」

「スザク、貴方はわたしの騎士です。貴方がわたしの騎士である限り、わたしは貴方が死ぬことを絶対許しません。
わたしのために自らを危険に晒すことも、絶対許しません」


真っ直ぐな瞳で、真っ直ぐにユーフェミアはスザクを見つめる。


「共に歩んで行きたいんです。これから、ずっとずーっと」


向けられる真っ直ぐな想いに、スザクは思わず目を反らす。



「…僕だって、そうですよ」


俯いて、何かに耐えながらスザクは呟いた。


 
「ずっと、死ぬことばかり考えた僕を、ユーフェミア様が変えたんです」


本当にいきなり、なんの前触れもなく唐突に固く閉ざされた扉を開けて。


「貴女がそう思ってくれている様に、僕も貴女と歩んで行きたいと思っています」

「スザク…!」

「僕の唯一の貴女に誓います。
僕が貴女の騎士である限り、決して死にません。生きて、未来を貴女と歩んで行きます」


スザクは顔を上げる。
彼の顔には、ユーフェミアがスザクと出会ってから初めて見る涙が頬を濡らしていた。

心から幸福そうに瞳を細め、ユーフェミアの両手を包む。
ユーフェミアはスザクの体温を感じながら微笑んだ。




「わたし、永遠にスザクを手放さないかもしれませんよ?」


「はい。僕も貴女の手を放したりはしませんから」








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