ブック13
□ピノキオ
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「ボクらはさぁ、ユーフェミア皇女殿下に感謝しないとね〜」
太陽に照らされた庭園で並ぶ少年と少女を見つめながら彼は陽気に呟く。
「ランスロットの大事なパーツを助けれくれてさ」
パーツだなんて、物のように言うけれど彼の眼鏡越しの瞳がとても優しく細められているのをセシルは知っている。
だから彼女は「そうですね」とただ微笑んだ。
アヴァロンのモニター越しに、ロイドとセシルはまだ若い二人をただただずっと見ていた。
ピノキオ
キュウシュウでの戦いでスザクは死ぬつもりだったのだろうとセシルは思っている。
ユーフェミアに騎士証を返還した後の彼はまるで、何もかもを悟ったように諦めた顔をしていた。
(あの人が自分を嫌いになってしまいそうで)
自分を認めてくれた人だから、そんな思いをさせたくない。
スザクはそう言って微笑んだけど、その笑顔がセシルの胸を締め付ける。
それなら、スザクはどうなのだと。
貴方は自分を嫌いになっているんじゃないの?
自暴自棄になっているんじゃないの?
でも思いは言葉に出来ず、彼に一歩踏み出すことは出来なかった。
言葉にしたら、彼が壊れてしまう、そんな気がして。
(わたくしを好きになりなさい!)
(その代わり、わたくしが貴方を大好きになります!)
(だから自分を嫌いにならないで!)
あの人は、ユーフェミア皇女殿下は何の躊躇いもなくスザクに一歩を踏み入れた。
ユーフェミアは真っ直ぐに純粋に真摯に、ただ枢木スザクを求める。
そんな彼女をスザクは受け入れた。
(そのいきなりの度に、僕の扉を開いてくれた)
(ありがとう)
そして彼は生きてロイドとセシル、ユーフェミアの元に帰ってきた。
アヴァロンの中で、庭園でスザクの帰還を待つユーフェミアの姿を真っ先に見つけた彼は
落ち着かない様子でロイドに「あの、まだですか、早く、あの」と話しかけていた。
しかし、いざ庭園に降り立つと顔を引き締めて「よし」と小さく呟いて、ゆっくりと歩き出した。
ロイドとセシルは顔を見合わせて笑った。
そんな二人にスザクはしかめっ面をしたけど。
「良かった、スザクくん」
貴方がまた、本当に笑えるようになって。
願わくば、その笑顔がずっと失われないように。
(お人形だったピノキオは女神様に人間してもらったのです)
。
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