「Re:call」サンプル


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「満月ですね」

マジバ帰り、空を見上げて黒子がそう言った。話し掛けられたようには聞こえなかったが、その声につられて火神も顔を上げる。

「おー」
「綺麗ですね」
「だな」

二人して立ち止まってぼうっと空を見上げていたら、うっすらと月に雲がかかり始めた。

「あ…」

それを黒子は確認したのだろう、小さく声を漏らしてから再び歩き始める。

「火神君、行きましょう」
「うん」

歩き出して、こつん、と触れたからどちらともなく手を繋いだ。

「明日雨でしょうか…」
「さあな」



◇◇◇



「黒子君火神君!ちょうどいいところに!」
「?」
「げっ」
「火神君、『げっ』って何よ」
「なんでもねぇ…です」

移動教室の授業が終わりクラスに戻ろうとしていたところに、リコがいい笑顔で二人に声をかけた。

「これお願いしてもいい?」
「え…」
「ちなみに拒否権はないわよ!」

それなら何故聞いた、と二人は同時に思った。
リコが指差したのは、新しく買った備品。先程届いたらしく部室まで運んで欲しいとのことだった。
さほど大きくはないが重量はしっかりあるダンボール箱を黒子は一つ、火神は二つ抱えて部室に向かう。

「…ったく、人使い荒いよな…」
「でもこの荷物をカントク一人で運ぶのは大変ですよ」
「そうだけどさー」

ブツブツと文句を言う火神を横目に黒子は緩く微笑む。
並んで階段を下りていたときだった。

「踏み外したりしないでくださいね」
「わーってるよ」
「ほんとにわか…っ」
「…?」

黒子、と火神が言おうとしたその目に映ったのは、遠くなる黒子と一人の男子生徒。
落ちている、と理解するのに数秒を要した。

「……っ黒子!」

ガツン、とダンボール箱が鈍い音を立てて黒子の側に落ちる。
火神は抱えていたダンボール箱を投げ捨て黒子の傍へ駆け寄る。

「…っ、保健室…っ!」

黒子を抱え、火神は保健室へと駆け込んだ。



◇◇◇



「…まったく、驚かせないでよ。黒子君が倒れたなんて」
「だって黒子、目覚まさねぇし…!」
「もー、大袈裟なのよ火神君は!大丈夫よ、先生も軽い脳震盪って言ってたんでしょ?」
「でも…っ」

ちらりと火神はカーテンの方を見遣る。
階段を下りていた際、後ろから走ってきた男子生徒と黒子がぶつかり、二人共落ちたのだ。
散々頭を下げていた彼はリコの仲裁によりようやく火神から解放され、先程保健室を出て行った。
外傷はないがまだ目を覚まさない黒子を心配する。

「…そんなに心配ならカーテンの中入ればいいのに」

じれったいわね!とリコが勢いよくカーテンを開けた。

「……あ」
「!黒子君!」
「黒子っ!?」

ぼうっとした顔で、黒子は上半身を起こしていた。

「大丈夫かよ、頭痛くねぇか?」
「……はい」
「良かったわー火神君ったらすごく心配してたんだから!」
「っ、カントク!」
「…はぁ……」

きょとんとした顔で黒子は火神を見上げる。

「今日は様子見て、部活は無理しないでね」
「…えぇと、」
「……黒子…?」

おかしい、と火神は思った。なんというか、反応が薄い。
そして次に黒子の口から出た言葉は。

「…すみません、どなた様ですか…?」
「は?」
「え?」

ほぼ同時に火神とリコが目を点にして、黒子の顔を再度見て。
黒子はもう一度繰り返した。

「…どなた様ですか?」
「………」

数秒後、二人の声が保健室の外まで響き渡ったのは言うまでもない。



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冒頭部分のちょっとだけですみません。
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