戦姫の嫁入り

□Prologue
1ページ/1ページ



 苦しい。誰か助けて。

 視界が真っ赤に染まっていく。
 遠くから悲鳴と叫び声が聞こえる。



 ……たくない……



 恐怖と絶望が全身を支配し、体を硬直させた。

『……逃げて!』

 そう、誰かが震える声で叫んだ。


 姿、服装からして女性だろう。
 顔は影でよく見えないが、その表情は切羽詰まっているとわかる。


 誰……?
 この人は誰?
 わからない。でも、私にとって大切な人だ。



 ……したくない……



『……あっ!!』

 彼女が後ろを振り向けば、卑猥な笑い声と共に黒い影が次々と現れた。


 助けて……
 頭の中で警鐘が煩く鳴り響く。


 影に囲まれ、もう逃げられない。


『来ないで!!』


 影が容赦なく迫ってくる中、彼女は私を守る様に前に出た。



 やめろ!来るな!
 彼女を守りたいのに、恐怖で体が動かない。


 なんで私はこんなにも非力で弱いのだろう。


 もし私が強かったら彼女を―私の大切な人達を守れただろうか?


 強くなりたい。



 思い出したくない……


『い、いやぁぁぁっ!』
 影は彼女を飲み込み、視界全てが黒く染まっていく。


 守ると約束した。


 強くならなければ……


 強くならないと大切な人を守れない。



 完全な闇に変わると同時に意識も闇の中に沈んでいった。





 
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ