長編

□入園式
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それは、桜が咲いた時の話。3歳になるアッシュの弟、ルークの幼稚園の入園式の時の話。

ひらひらと咲いた桜の花びらが風によって流され、地に落ちる。

その花びらをぼんやりと眺めていた9歳の兄、アッシュは父と母と手を繋ぎ歩いてくるルークを視界に入れ、その無表情を少し緩ませた。

アッシュとルークの両親は多忙で、家でもなかなか会うことはない。食事を一緒にしていても、必ず途中で仕事が入り、直ぐに家から出ていってしまう。なので、ルークの入園式に来れるかわからなかったのだ。だからアッシュは今日、両親が来てくれて良かったと思っていた。

「あっちゅおにちゃん!」

まだ上手く喋れないルークはアッシュを視界に納めると、両親に向けていたひまわりのような笑顔をアッシュに向けた。両親にあまり育てられなかったせいか、ルークはアッシュを誰よりも慕っているのだ。両親と繋いでいた手を程き、ルークはアッシュへと飛び付いた。

「わっ、」

「あっちゅおにちゃんもきてくれたの?」

ポスリとルークを抱き止めたアッシュに、ルークが笑顔で問いかける。その笑顔は本当に嬉しそうで、アッシュは恥ずかしげに顔をそらし、誤魔化すようにルークの頭を撫でた。

「おともらち、できるかなぁ?」

「ルークなら出来るさ。」

「うんっ!」

端から見てもわかるようにとても仲の良い二人。そんな二人を両親は微笑ましく見ていた。

























「ただいま。」

「あっちゅおにちゃん!」

バタバタと駆けてくるのは、弟のルーク。入園式が終わり、ルークが幼稚園に通い初めてから早二週間が経っていた。毎日笑顔で家に帰ってくるルークに、アッシュは幼稚園で友達が出来て良かった、と内心安心していた。アッシュは靴を脱ぎ、部屋にルークと一緒に行くと、背負っていた黒いランドセルを机に置いた。

「今日は、何をして遊んだんだ?」

「かくれんぼ!」

絨毯のひかれた床に座り、アッシュはルークにそう聞く。これはルークが幼稚園に入ってからの日課と成りつつあった。今日あったことをルークが舌足らずな口で教え、アッシュが少し表情を和らげたけれども、無表情でそれを聞く。それが、今の毎日。

「楽しかったか?」

「うん!」















そんな毎日が、続くんだと、アッシュもルークも、ずっと思っていた。






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