.
□御手紙
1ﾍﾟｰｼﾞ/2ﾍﾟｰｼﾞ
お元気ですか？此方は未だ蒸し暑い日々が続いております。
しかしこの日差しのお陰か、貴方が大事に育てられていた朝顔が鮮やかに綻んでおります。
其の朝顔を見る度に、貴方の事を思い出すのです。
そして時折、潮風に乗って波の音が聞こえてきます。貴方が戦っていらした海の鼓動が。
あの日…貴方が赤紙を受け取られ出兵されてから二年の月日が経ってしまいましたね。
私達が再会を果たす前に此の日本国は第二次世界大戦の敗北を認めポツダム宣言を受け入れたとのお話です。
戦は負けてしまいましたが、
もう、終わったのです。全てが。
此の苦しみからも、解放のお許しが出たという事なのです。
だから、早くお帰りになられて下さい。
また、何時もの様にお屋敷の扉をノックして、其の微笑みを私に見せて下さい。
そして、抱きしめてください。優しく、包み込むように。
…何故です？
…一緒に美しく咲いた朝顔を見守ろうと約束なさったではありませんか。
また、あの美しい浜辺でゆっくり過ごそうと仰ったのも貴方ではありませんか。
嫌な冗談はおよしになって下さい。
何故…何故、蓮二さんが着られていた軍服と、私が蓮二さんにと作った御守りしか帰ってこないのです…？